「とりあえず1ヶ月出してみて、ダメなら考えよう」——求人を出すときの判断がこの形になっていないでしょうか。そして応募がゼロのまま1ヶ月が過ぎ、媒体の担当者から「プランを上げれば露出が増えます」と言われ、もう1ヶ月。さらに人材紹介にも声をかけ、気づけば当初想定の何倍も使っている。それでも「ここまで使ったのだから」と止められない。

これは判断力の問題ではなく、上限を決めずに始めたことによる構造的な現象です。上限がなければ、いつ止めるかを決める基準もありません。逆に「この採用は1人あたり◯万円まで」と掲載前に決めておくと、増額を勧められたときも、紹介会社から提案を受けたときも、同じ物差しで判断できます。この記事では、その上限をどう置くかと、上限に収まらなさそうなときに何から手を打つかを整理します。

上限を決めずに出すと、何が起きるか

採用費用の使い方が苦しくなる会社には、いくつか共通する流れがあります。

ひとつは、増額の判断が単発になることです。「あと3万円で上位プランに」という提案は、その3万円だけ見れば小さな額です。しかしこれが4回繰り返されれば12万円で、当初の掲載費と合わせると当初想定を大きく超えます。上限がないと、比べる相手が「前回の追加額」になってしまうのです。

もうひとつは、サンクコストに引っ張られることです。すでに20万円使っていると、「ここで止めたら20万円が無駄になる」と感じます。ですが判断すべきは、これから追加で使う金額が見合うかどうかだけです。上限を先に決めておくと、「すでに使った額」ではなく「上限までの残り」で考えられるようになります。

三つめは、社内で費用の議論ができないことです。総務担当が「もう掲載費を増やすのは厳しい」と感じていても、基準がなければ社長に伝える言葉になりません。上限を決めるのは、支出を絞るためというより、社内で同じ数字を見て話すためでもあります。

上限は、年収と欠員損失の両側から置く

では上限をどう置くか。ひとつの正解はありませんが、2つの方向から数字を出して、低いほうを採るか、その間に置くのが実務的です。

(1)想定年収からの割合で置く

採用したいポジションの想定年収に、自社で決めた割合を掛けます。「世間の相場」より、自社が実際に受けている見積もりを基準にするほうが確かです。たとえば人材紹介会社から提示されている料率が理論年収の◯%であれば、その金額はすでに「払う可能性のある額」として社内で検討されているはずです。それを上限の目安のひとつにできます。

(2)欠員が続くことで失っている額から置く

もう一方は、採れないまま時間が過ぎるコストです。残業代の増加、受けられない仕事、既存社員の疲弊。これを月額に換算し、許容できる欠員期間を掛けると「それまでに採れるなら、いくらまで払っても合う」という金額が出ます。考え方は欠員1人のまま回すと、毎月いくら失っているのかで整理しています。

仮の数字で並べてみます。あくまで計算の形を示すための例で、業種や職種による実額ではありません。

考え方仮の計算出てくる上限
年収基準想定年収 × 自社で決めた割合年収360万円 × 20%72万円
欠員基準欠員1ヶ月の損失 × 許容期間月15万円 × 4ヶ月60万円

この例なら、上限は60〜70万円のあいだに置くことになります。そして重要なのは、この上限に広告費だけでなく社内の人件費も含めて数えることです。応募対応や日程調整に社長や総務が使った時間は、請求書が来ないだけで確かにコストです。含め方は社長と総務が採用に使っている時間は、いくらのコストかで試算の手順にしています。

なお、この上限は職種ごとに変わります。パート1名と、現場を任せられる有資格者1名に同じ金額をあてるのは合いません。募集する枠ごとに置き直してください。

掲載前に、上限を内訳に割る

上限の総額が決まったら、次は内訳です。上限60万円と決めただけでは、いつ止めるかはまだ決まっていません。

仮に上限60万円、採用目標1名として割るなら、たとえばこうなります。

ここで決めておきたいのは、次の段階に進む条件です。「1ヶ月で応募が◯件未満なら二次へ」「二次で面接まで進んだ人が◯人未満なら三次へ」というように、進む条件を数字で先に書いておく。これがないと、段階の切り替えが「なんとなく焦ったタイミング」になります。

もうひとつ、上限には社内工数の枠も入れてください。掲載を増やして応募が倍になれば、対応の時間も倍になります。お金の上限だけ守れても、総務担当の残業が増えて他の業務が止まるなら、総額では合っていません。

上限を超えそうなとき、何から手を打つか

見積もりを積み上げた段階で「上限に収まらない」と分かることもあります。そのとき打つ手には、費用が小さい順があります。上から順に検討するのが基本です。

1. いま来ている応募の歩留まりを直す

追加費用がほとんどかからないのに、効き方が大きいのがここです。応募が10件あって面接に進んだのが1件なら、対応を直して3件にできれば、広告費を3倍にしたのと近い結果になります。まず自社の面接設定率を出してみてください(面接設定率という指標。応募からの歩留まりを測る第一歩)。応募数が少ない会社ほど、1件の取りこぼしが上限を押し上げます。

2. 要件を分解する

「経験3年以上の正社員1名」を、「未経験+社内教育」や「パート2名」に置き換えられないかを検討します。要件を緩めると応募は増えやすい一方で、要件外の応募が混ざって対応の手間も増えます。緩める前に、どこまで電話で確認できるかを整理しておくと無駄が減ります。

3. 費用のかからない経路を先に使う

社員紹介への声かけ、過去に応募してきた方への再連絡、取引先への相談。いずれも広告費はかかりませんが、声をかける段取りと候補者への丁寧な対応が必要です。紹介に報奨金を出す場合も、広告費や紹介手数料と比べればまだ上限の内側に収まりやすいことが多いです。

4. 条件(給与・勤務形態)を見直す

ここから先は支出が増える側です。時給や月給を上げれば応募は増えやすくなりますが、既存社員との整合という別の論点が出てきます。採用費より恒常的な人件費が動く判断なので、順番としては後ろに置きます。

5. 上限の中で人材紹介を使う

成功報酬が上限の内側に収まるなら、これは合理的な選択です。上限を先に決めておくと、「高いか安いか」ではなく「上限に収まるか」で判断できます(人材紹介の成功報酬は高いのか。自社対応との損益分岐を計算する)。

6. 採用の時期をずらす、別の手段で埋める

どうしても上限に収まらないなら、採用そのものを先に延ばす、あるいは業務委託や外注で一時的に埋めるという判断もあります。上限を決めていない会社は、この選択肢を検討する前に予算を使い切ってしまいがちです。

この順番を見ていただくと分かるとおり、上位に来るのは「お金を足す手」ではなく「いま持っているものを活かす手」です。追加の広告費を検討していた会社が、応募後の連絡の型を整えただけで面接数が変わったというケースがあります。順番については応募が少ない会社が、応募を増やす前にやるべきこともあわせてご覧ください。

決めた上限は、紙1枚にして共有する

上限は、社長の頭の中にあるだけでは機能しません。募集を始める前に、A4一枚で書き出してください。書く内容は多くありません。

この一枚があると、媒体の担当者から増額を勧められたときも、「今は二次の段階なので、ここまでです」と即答できます。判断を毎回ゼロから考えなくて済むことが、上限を決める最大の効果です。

そして上限の内訳を書いていくと、多くの会社で社内工数の欄が思っていたより大きくなります。応募の受付、初回連絡、つながらないときの追いかけ、日程調整、前日のリマインド。どれも単体では短い作業ですが、件数が増えるほど積み上がり、本業の時間を削っていきます。

社外採用部は、求人・媒体・スカウトなど母集団形成の運用から、応募の受付、初回連絡、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社までのフォローまで、面接以外の採用実務を社外の採用事務局としてお引き受けするサービスです。面接そのものと採否の判断は御社が行います。いま来ている応募を面接まで運ぶ部分を任せることで、上限の中での歩留まりを上げやすくなります。料金は月額49,800円からと初回設計費100,000円、以降の費用は支援内容・工数に合わせて個別にお見積りしますので、上限に組み込んで試算しやすいよう、先に前提をすり合わせます。

自社の上限がいくらになりそうか、そのうち社内工数がどれくらいを占めているか。見積もりの段階から一緒に整理することもできます。サービス責任者の佐々木もご相談に同席しますので、まずはお問い合わせからお気軽にお声がけください。