求人を出しても人が決まらない。同じ地域の他社の募集を見ると、時給が自社より50円、100円高い。「うちも上げないと勝てないのではないか」——採用が思うように進まないとき、経営者が最初に検討するのが賃金の引き上げです。実際、条件は応募数に効く要素のひとつですから、この判断自体は間違っていません。
ただ、賃上げは一度上げると下げられない固定費です。しかも効果が出るまでに掲載期間を1〜2ヶ月要し、「上げたのに変わらなかった」という結果が出たときには、すでに人件費だけが積み上がっています。この記事では、賃上げを否定するのではなく、上げる前に確認しておきたい数字と副作用を、順番に整理します。
時給100円アップは、年間でいくらになるか
まず、金額の感覚を揃えます。以下はすべて仮の数字です。パート・アルバイト10名が在籍し、1人あたり月120時間勤務している会社で、時給を100円上げた場合を考えます。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 1人あたり月額の増加 | 100円 × 120時間 | 12,000円 |
| 在籍10名の月額増加 | 12,000円 × 10名 | 120,000円 |
| 年間の増加 | 120,000円 × 12ヶ月 | 1,440,000円 |
| 社会保険料の事業主負担(仮に15%として) | 1,440,000円 × 15% | 216,000円 |
| 年間合計(概算) | — | 約1,656,000円 |
時給100円という数字は、募集要項の上では小さく見えます。しかし在籍者にも同じ条件を適用すれば、年間で160万円を超える固定費になり得ます。残業割増や賞与が基本給に連動する会社であれば、さらに上振れします。
この1,656,000円を、採用の成果に置き換えてみます。仮に1人採用するための広告費が15万円かかっているとすれば、同じ金額で10回分以上の掲載ができる規模です。つまり賃上げは、募集1回あたりの投資ではなく、毎年発生し続ける意思決定だということです。上げる価値がある場面は当然ありますが、「とりあえず上げてみる」で入るには重い扉だと考えておくのが安全です。
応募が増えても、面接設定率が同じなら結果は変わらない
もうひとつ押さえておきたいのが、賃上げが効くのは「応募数」までだという点です。応募が増えても、その応募を面接まで運べていなければ、採用人数はほとんど動きません。
仮に、月10件の応募があり、そのうち3件が面接に進んでいる会社(面接設定率30%)を考えます。
| パターン | 応募数 | 面接設定率 | 面接実施 |
|---|---|---|---|
| 現状 | 10件 | 30% | 3件 |
| 賃上げで応募が3割増 | 13件 | 30% | 約4件 |
| 応募数は同じで設定率を上げる | 10件 | 60% | 6件 |
賃上げで応募が3割増えても、面接に進むのは3件から4件へ、1件の増加です。一方、応募数がそのままでも面接設定率が30%から60%になれば、面接は6件になります。年間160万円の固定費を追加するより、応募後の連絡のしかたを整えるほうが先に効く可能性があるのは、この構造によります。
面接設定率が低いままだと、応募が増えたぶんだけ「連絡したけれどつながらなかった人」「日程調整の途中で返信が止まった人」が増えるだけになります。応募が増えて対応工数だけが膨らむ状態は、よくある状態です。面接設定率の測り方は面接設定率という指標。応募からの歩留まりを測る第一歩で詳しく整理しています。
賃上げ前に測っておく3つの数字
上げるか上げないかを判断するために、最低限そろえたい数字は3つです。いずれも特別なシステムは要らず、Excel一枚で記録できます。
1. 応募数(媒体別・月別)
まず、そもそも応募が来ているのかを確認します。応募がほとんど来ていないなら条件や掲載面の問題である可能性が高く、賃上げの検討には意味があります。逆に応募は毎月一定数あるのに採用が決まらないのであれば、原因は条件ではなく応募後の工程にあると考えられます。
2. 初回連絡までの時間
応募が届いてから、こちらが最初に電話やSMSを入れるまでに何時間かかっているか。ここが翌日や翌々日になっていると、条件を上げても他社に先を越されやすくなります。応募者は同時に複数へ応募しているのが普通で、先に話が進んだところで決めていきます(応募後1時間以内の初回連絡が、採用の歩留まりを変える理由)。
3. 面接設定率
応募のうち何件が面接まで進んだか。前章のとおり、ここが低いままだと賃上げの効果は薄まります。
この3つを1〜2ヶ月記録してから判断するだけで、「条件の問題」と「対応の問題」を切り分けられます。切り分けの手順は求人媒体を変える前に確認したい、応募後対応の数字とも重なりますので、あわせてご覧ください。
見落としがちな副作用:既存社員の賃金との整合
賃上げを募集要項だけで済ませようとすると、別の問題が起きます。新しく入る人の時給が、5年働いている既存社員と同じ、あるいは上回るという状態です。
求人票は誰でも見られますから、この逆転はほぼ社内に知られます。「自分の時給は据え置きで、新人が同じ額か」という不満は、静かに定着率へ影響します。募集条件だけ引き上げた結果、既存スタッフから説明を求められて対応に追われた、という話はよくあります。
ですから賃上げを検討するなら、募集条件だけでなく在籍者への適用範囲、経験年数や資格による差のつけ方までを同時に決めておくのが現実的です。そのぶん金額は膨らみますが、それが本来の賃上げのコストです。
なお、条件面での競争力が本当に不足しているケースもあります。地域の最低賃金に近い水準で募集していて応募がゼロに近いなら、対応を磨いても届く人がいません。その場合は賃上げが先です。判断の順番としては「応募がほぼ来ていない → 条件・掲載を見直す」「応募は来るが面接に進まない → 応募後の対応を見直す」と分けて考えると迷いにくくなります。
上げる前に、いま来ている応募を使い切る
賃上げは有効な打ち手ですが、効き方が間接的で、コストが恒久的に残ります。だからこそ、先に測っておく価値があります。応募数、初回連絡までの時間、面接設定率。この3つを見て、応募は来ているのに面接に届いていないとわかったなら、年間160万円の固定費より先に手を入れる場所があるということです。
応募後の連絡や日程調整を社内で回しきれないことが原因であれば、その工程だけを社外に持つという選択もあります。社外採用部は、求人・媒体・スカウトなど母集団形成の運用から、応募の受付、初回連絡、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社フォローまで、面接以外の採用実務を御社の採用事務局として代行するサービスです。面接そのものと採否の判断は御社が行います。月額49,800円〜(初回設計費100,000円、以降は支援内容・工数に合わせて個別にお見積り)で、応募が来たあとの取りこぼしを塞ぐ部分も担います。
自社の数字をどう読めばよいか迷う段階でも構いません。いまの応募数と対応の流れをお聞かせいただければ、賃上げが先か、対応の整備が先かの整理からご一緒します。お問い合わせはこちらからお気軽にご相談ください。
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