退職者が出てから数ヶ月、求人は出しているものの決まらない。それでも現場は何とか回っている。残業で埋めたり、社員が持ち場を兼ねたり、社長自身が現場に入ったりして、日々の業務は止まっていない——。この状態が長引いている会社は少なくありません。
困っているのは確かなのに、「欠員1人」という状態が具体的にいくらの損失なのかを計算したことがある会社は多くないはずです。求人広告費や採用支援の見積もりを見て「高いな」と感じるとき、比較対象になっているのはたいてい「ゼロ円」、つまり何もしないで待つことです。しかし待つことにも金額はついています。この記事では、その金額を自社の数字で出す手順を整理します。
欠員の損失が見えにくい理由
欠員のコストが認識されにくいのは、それが「支出」として帳簿に現れないからです。人が1人いない分、その人の人件費はむしろ浮いています。損益計算書の上では、欠員は一見プラスに見えることすらあります。
実際に起きているのは、その仕事が消えるのではなく、別の場所に移動しているということです。移動先は残業時間であり、売上を取りに行けなかった時間であり、残った社員の消耗です。どれも「人件費」や「機会損失」という名前で明細に載ってこないため、感覚としての大変さだけが積み上がります。
そこで、欠員1人あたりの月額損失を次の3層に分けて見ていきます。以降の数字はすべて仮のもので、自社の実態に置き換えてお使いください。
第1層:残業代と代替要員の増加
もっとも計算しやすいのがこの層です。欠員が出る前と後で、部署全体の残業時間がどう変わったかを見ます。
計算式:(欠員後の月間残業時間 − 欠員前の月間残業時間)× 平均時間単価 × 割増率
たとえば、部署の月間残業が欠員前は合計40時間、欠員後は合計90時間になったとします。増加分は50時間。平均時間単価を1,800円、割増率を1.25とすると、50 × 1,800 × 1.25 = 月112,500円。
これに加えて、派遣やスポットの人手を入れている、他部署から応援を出している、社長や管理職が現場に入っているといった場合は、その分の時間も同じ式で足します。管理職の時間単価は一般社員より高いことが多いので、ここは軽視しないでください。社長が本来やるべき仕事の時間を現場で使っているなら、それも損失です。
第2層:売上・生産の機会減少
こちらは業種によって出し方が変わりますが、「人が1人いないために、受けられなかった仕事」を金額にします。
- 受注を断った件数 × 1件あたりの平均粗利
- 稼働できなかった車両・台数・シフト × 1日あたりの粗利
- 納期が延びたことによる案件の後ろ倒し分
仮に、月に2件の依頼を人手不足で断り、1件あたりの粗利が80,000円だとすれば、月160,000円。断った件数を記録していない会社が多いので、まずは「今月、人がいれば受けられた仕事」を現場に思い出してもらうところから始めるとよいと思います。
なお、この層はゼロになることもあります。仕事量が安定していて残業でカバーしきれている会社なら、無理に金額を作る必要はありません。その場合は第1層と第3層で見ます。
第3層:既存社員の疲弊による離職リスク
もっとも金額化しにくく、しかし実際にはもっとも大きくなりうるのがこの層です。欠員をカバーしている社員が、その負荷に耐えかねて辞めてしまうリスクを、期待値として置きます。
計算式:1人が辞めた場合の損失額 × 自社で見込む発生確率
たとえば「1人が辞めたときの損失を100万円と見積もり、この状態があと6ヶ月続くなら誰か1人が辞める可能性は3割くらいだろう」と経営者が判断したなら、100万円 × 0.3 = 30万円。これを6ヶ月で割ると、月あたり50,000円という置き方になります。
確率は統計から出せるものではなく、経営者の実感で置くしかありません。それでも「ゼロとして扱わない」ことに意味があります。欠員のカバーが長期化すると、ベテランから順に消耗していくというのは、よく言われることです。辞めた1人を埋めるために、次の1人を失うという連鎖が最も高くつきます。なお、辞められたときの損失額の積み上げ方は入社3ヶ月で辞められると、いくら失うのかでも別の角度から整理しています。
3層を合計して、採用の費用と並べる
ここまでの3層を1枚にまとめます。
| 層 | 計算の材料 | 仮の月額 |
|---|---|---|
| 第1層 残業・代替要員 | 残業増加時間 × 時間単価 × 割増率 | 112,500円 |
| 第2層 機会の減少 | 断った件数 × 1件あたり粗利 | 160,000円 |
| 第3層 離職リスク | 離職1件の損失 × 発生確率 ÷ 残り月数 | 50,000円 |
| 合計 | 322,500円/月 |
繰り返しますが、この数字はすべて仮のものです。自社で入れ直せば、もっと小さくなる会社もあれば、倍近くなる会社もあります。大事なのは、出てきた月額を「採用のためにかけようとしている費用」の横に並べることです。
たとえば求人広告の追加掲載費、人材紹介の手数料、応募対応を外部に任せる費用。それらが月額いくらで、欠員が1ヶ月早く埋まることでこの損失が何ヶ月分減るのか。その比較なしに「高い」「安い」を判断すると、たいてい待つ方を選んでしまいます。
もうひとつ確認していただきたいのは、欠員が埋まらない原因が本当に応募不足なのかという点です。応募は届いているのに面接まで進んでいないなら、広告費を足しても欠員期間は縮まりにくいと考えられます。面接設定率という指標。応募からの歩留まりを測る第一歩を参考に、まず自社の歩留まりを確認してみてください。応募を増やす前に見るべきものの順番は、応募が少ない会社が、応募を増やす前にやるべきことにまとめています。
欠員のコストを月額で出すと、「今月も様子を見る」という判断の値段が見えます。その金額を知ったうえで待つなら、それは経営判断です。知らないまま待っているなら、一度だけ電卓を叩いてみる価値はあると思います。
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