片道1時間半、電車を乗り継いで来てもらう距離の応募者から連絡が入った。来てくれるなら交通費くらいは出したい。けれど、全員に出すと金額が読めないし、当日来なかったら何も残らない。かといって他社が出していたら、そちらに流れてしまうのではないか——。
交通費の話は、金額そのものは小さいのに、決めきれないまま毎回その場で判断している会社が少なくありません。この記事では、「出すべきか/出さざるべきか」という善し悪しの議論ではなく、来てもらえる確率と1件あたりの負担額という2つの軸で判断できる形に置き換えて整理します。
判断の軸は「確率」と「1件あたりいくら」の2つだけ
交通費の支給は、福利厚生ではなく選考を前に進めるための費用です。ですから、見るべきは次の2点に絞れます。
ひとつは、出すことで来てもらえる確率が上がるかどうか。片道数百円の距離の人にとって、交通費の有無は来社判断をほとんど左右しません。一方、往復3,000円や5,000円かかる距離の人にとっては、複数社の面接を受けるたびに実費が積み上がります。在職中で休みを取って来る方なら、なおさらです。確率が動くのは「遠い人」であって「全員」ではない、という点がまず起点になります。
もうひとつは、1件あたりの負担額と月の総額です。仮の数字で考えてみます。往復3,000円を支給し、面接が月5件あれば月15,000円。年間で18万円です。この金額を高いと見るか安いと見るかは、1回の面接に社内でかかっているコストと並べると判断しやすくなります。日程調整から面接官2名の拘束、振り返りまで含めると、面接1回には交通費を大きく上回る社内コストがかかっていることが多いものです(面接1回に、社内でいくらかかっているのか)。
つまり交通費は、すでにかけている面接コストを無駄にしないための上乗せ分として見ると位置づけが定まります。
線引きは3案。自社の応募の分布から選ぶ
全員に出すか出さないかの二択で考えると決まりません。実務では次の3つの線引きがよく使われます。
| 線引き | 対象 | 月の負担の目安(仮の数字) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 全員一律の定額 | 面接に来た全員に一律1,000円など | 月5件で5,000円 | 応募が近隣中心。事務を簡単にしたい |
| 一定距離・一定額以上 | 片道の実費が1,500円を超える人、など | 月1〜2件で3,000〜6,000円 | 近隣と遠方が混ざる。遠方を取りこぼしたくない |
| 最終選考のみ実費 | 二次・最終に進んだ人だけ実費支給 | 月1件で5,000円前後 | 選考が2回以上ある。一次をオンラインにしている |
全員一律の定額は、金額の計算も説明もいらないのが利点です。ただし近隣から来る方には過剰になり、遠方の方には足りません。
一定額以上という線引きは、確率が動く層だけに絞れるのが合理的です。「片道の交通費が1,500円を超える場合は実費を支給」といった基準を決め、上限額(たとえば片道3,000円まで)も同時に決めておきます。上限がないと、想定外の遠方や新幹線利用で判断に迷います。
最終選考のみという線引きは、件数が読めるのが最大の利点です。一次面接をオンラインで行い、最終だけ対面にして交通費を出す。この組み合わせなら、遠方の候補者に「移動の負担は最後の1回だけ」と伝えられます(一次面接をオンラインにすべき候補者、対面がいい候補者)。
どれが正解というものではなく、自社の応募がどこから来ているかで選び分けるものです。過去半年の応募者の住所を並べてみると、どの線引きが実態に合うかが見えてきます。
支給するなら、事前案内・渡し方・記録の3点を先に決める
決め方以上にトラブルになりやすいのが、伝え方と渡し方です。
事前案内。面接日程が確定したときの案内メールやSMSに、交通費の扱いを1行入れます。避けたいのは「交通費は当社規定により支給」「交通費は応相談」といった曖昧な表現です。いくら出るのか分からないまま来社した候補者は、少額でも「思っていたのと違う」と感じます。
当日の交通費として、片道の実費(上限3,000円)をお渡しします。経路と金額が分かるメモをお持ちいただけますと手続きがスムーズです。現金でのお渡しとなりますので、受領印や領収書は不要です。
このくらい具体的に書いておくと、当日のやり取りが数十秒で終わります。案内文に入れる情報を一通り揃える考え方は、面接会場にたどり着けない。道順案内が当日キャンセルを生むでも触れている通り、候補者の不安を先回りして消す作業の一部です。
当日の渡し方。現金なら、面接終了後に封筒で渡すのが扱いやすい形です。面接の冒頭で渡すと、候補者が面接中ずっと封筒を手元に置くことになり落ち着きません。後日振込にする場合は口座情報を聞く必要があり、候補者によっては抵抗を感じることもあります。金額が小さいうちは現金のほうが摩擦が少ないことが多いものです。
記録。日付・氏名・選考段階・金額・支給方法を1行ずつ残します。経費処理の根拠になるのはもちろん、後から「交通費を出した人の来社率はどうだったか」を振り返る材料にもなります。なお、支給額の税務上の取り扱いや源泉の要否は会社の状況で変わりますので、顧問税理士に確認してください。
出さないと決めてもいい。ただし「書いていない」は避ける
交通費を出さないという判断は、それ自体が問題になるものではありません。むしろ避けたいのは、出すとも出さないとも書かれていない状態です。候補者は、交通費の記載がないと「聞いていいのだろうか」と迷い、その迷いが会社への印象に薄く残ります。
出さないと決めたなら、面接案内に「恐れ入りますが、交通費の支給はございません」と一行添える。そのうえで、遠方の方には別の形で負担を減らす手があります。一次をオンラインにする、面接と職場見学を同じ日にまとめて来社を1回で済ませる、移動しやすい時間帯に面接枠を寄せる。いずれも費用をかけずにできる調整です。
こうした配慮の積み重ねが、条件面で並んだときの差になります。同じ地域の他社と比較されている中で、応募後の対応がどこで効いてくるかは同じ地域の他社と比べられている。応募後にどこで差がつくかでも整理しています。
決めた基準を、毎回の案内文に乗せきる
交通費のルールは、決めること自体は30分で終わります。難しいのは、決めた内容が毎回の面接案内に正しく入り、当日きちんと渡され、記録が残る状態を続けることです。日程調整に追われていると、案内文の一行はいちばん先に抜け落ちます。
社外採用部は、中小企業の採用事務局として、応募の受付や初回連絡、面接の日程調整、面接前後のフォローを社外から担います。交通費を出すかどうか、いくらにするかを決めるのは御社ですが、決まった基準を案内文に反映し、候補者からの問い合わせに同じ基準で答え、支給記録を残していく作業は、外に出せる部分です。面接そのものと採否の判断は御社に残したまま、その前後の手間を預けられます。
料金は月額49,800円〜(初回設計費100,000円)。支援内容と工数に合わせて個別にお見積りします。
遠方からの応募にどう応じるか迷っている、あるいは案内文の抜け漏れが続いている、という段階でも構いません。まずは現状の面接案内を一緒に点検するところから、こちらからご相談ください。
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