求人広告の掲載料はいくらか、と聞かれれば即答できる会社は多いと思います。一方で「面接1回にいくらかかっていますか」と聞かれると、答えに詰まるのではないでしょうか。面接は社内の人間が社内の会議室でやっているので、請求書が届きません。請求書が届かない支出は、経営の判断材料から抜け落ちがちです。
けれども面接の周りには、日程を決めるやりとり、資料の準備、会場の用意、面接官2名の拘束、終わったあとの振り返りまで、確実に人の時間が積み上がっています。ここを一度金額にしておくと、「前日リマインドを送る手間」「面接枠をあらかじめ押さえておく手間」が割に合うのかどうかを、感覚ではなく数字で判断できるようになります。この記事では、面接1回あたりの社内コストを積み上げる手順をご紹介します。
まず、面接の前後にある工程を全部書き出す
面接のコストを「面接をしている時間」だけで見てしまうと、実態の半分も拾えません。面接が成立するまでには、その前後に細かい作業がぶら下がっています。
書き出すときは、次の5つのかたまりで考えると漏れにくくなります。
- 日程を決めるまで:応募内容の確認、電話・SMS・メールでのやりとり、面接官の予定確認、確定連絡、カレンダー登録
- 前日まで:リマインド送信、会場や道順の案内、履歴書の印刷、質問シートの用意
- 当日の準備:会議室の確保と片付け、応対する社員への声かけ、候補者の到着待ち
- 面接そのもの:面接官の拘束時間(人数分)
- 面接のあと:評価の記録、面接官同士のすり合わせ、合否判断、結果連絡
このうち日程調整のやりとりは、1往復で終わることのほうが少ないものです。候補日を出す、返事を待つ、社内に確認する、再度提示する。この往復が積み重なると、面接そのものより時間を食っていることも珍しくありません。日程調整が長引く構造については中小企業の面接日程調整が空中分解する理由と直し方でも整理しています。
時給換算して積み上げる
次に、書き出した工程に「誰が」「何分」を割り当て、時給をかけます。
時給は、年収を年間の労働時間で割ると出せます。たとえば年収480万円で年間1,900時間働く方なら、1時間あたり約2,500円。社会保険料の会社負担分まで含めるなら、1.15〜1.2倍ほどして考えると実態に近づきます。細かい精度より、桁を間違えないことのほうが大切です。
ここから先は、あくまで仮の数字での試算です。担当者2,500円/時、現場責任者3,000円/時、社長5,000円/時として積み上げてみます。
| 工程 | 担当 | 時間 | 概算 |
|---|---|---|---|
| 応募確認・日程調整のやりとり | 担当者 | 40分 | 約1,700円 |
| 面接官の予定確認・カレンダー登録 | 担当者 | 10分 | 約400円 |
| リマインド・資料準備 | 担当者 | 20分 | 約800円 |
| 会場準備・片付け | 担当者 | 15分 | 約600円 |
| 面接(45分)+前後の待機 | 現場責任者 | 55分 | 約2,800円 |
| 面接(45分)+前後の待機 | 社長 | 55分 | 約4,600円 |
| 振り返り・評価記録・結果連絡 | 担当者+面接官 | 30分 | 約1,500円 |
| 合計 | 約12,400円 |
仮の数字とはいえ、面接1回で1万円を超えることになります。月に5件面接をしていれば6万円台、年間なら70万円を超える計算です。求人広告費と並べたときに、決して小さくない額ではないでしょうか。
自社で計算するときは、この表の時間欄だけ自社の実感に置き換えてください。面接官が3名になる会社もあれば、現場から会議室まで移動に15分かかる会社もあります。なお、面接に限らず採用業務全体で月にいくらの人件費が乗っているかを見たい場合は、社長と総務が採用に使っている時間は、いくらのコストかのほうが目的に合います。
無断キャンセル1件で、いくら消えるのか
この積み上げが効いてくるのが、面接に候補者が来なかったときです。
無断キャンセルが起きると、面接そのものはゼロ分で終わります。しかし、日程調整の40分、予定確認の10分、リマインドと資料準備の20分、会場準備の15分は、すでに支出済みです。加えて、面接官2名は予定を空けて待っています。仮に30分ずつ待機したとすると、現場責任者1,500円、社長2,500円。
合わせると、先ほどの仮の数字では7,000円前後が何も残らずに消えます。しかも失われるのはお金だけではありません。現場責任者が段取りをずらして空けた時間、社長が別件を後ろに動かした時間は、その日のうちには戻ってきません。
ここで見ておきたいのが、防ぐ側の手間です。前日にSMSで一通リマインドを送る作業は、文面が用意されていれば1件2〜3分程度。時給2,500円なら100円強です。100円台の手間で、7,000円が消える確率を下げられるなら、判断は難しくないはずです。無断キャンセルが起きる背景そのものは面接の無断キャンセルはなぜ起きるのか。前日までにできる予防策で、送る中身は面接前日のリマインドメール例文。送る内容と気をつけたい一言で扱っています。
数字を出したあと、どこから手を入れるか
計算してみると、多くの会社で金額が膨らむのは「面接そのもの」ではなく、その周りの調整と、来なかったときの取り返しのつかなさだと分かります。だとすれば、手を入れる順番は次のようになります。
- 前日リマインドを例外なく送る。1件100円台の投資で、消える7,000円の発生確率を下げます
- 面接枠を先に固定する。毎週決まった曜日・時間に枠を仮押さえしておくと、日程調整の往復が減り、候補日をその場で出せます。調整の40分を短くする効果と、候補者を待たせない効果の両方があります
- 面接官の人数と時間を見直す。一次から社長が同席する必要があるかは、職種ごとに分けて考えられます。単価の高い人の時間が最も重いのは、表を見れば一目瞭然です
- 振り返りを短く、形式を決める。評価を口頭で済ませると、後日もう一度話し合う時間が発生します
2つ目の面接枠については、枠を空けたのに埋まらない無駄が気になるかもしれません。その場合も、埋まらなかった枠を何日前に解放するかのルールを決めておけば、損失は限定できます。具体的な組み方は面接枠が取れない。現場が忙しい会社の面接枠の作り方にまとめています。
なお、この計算の目的は「面接を減らすこと」ではありません。1回1万円かかると分かったからこそ、その1回を無駄にしない準備に手間をかける判断ができる、という順番です。面接を減らせば採用も遠のきます。
請求書の来ない支出を、経営の視界に入れる
面接1回のコストを出す作業は、そう難しいものではありません。工程を書き出し、担当と分数を入れ、時給をかけるだけです。30分あれば、自社の数字が1枚できあがります。
その1枚があると、社内の会話が変わります。「リマインドを送る余裕がない」ではなく「100円の手間で7,000円のリスクを下げる」という話になり、「面接枠を空けておくのはもったいない」ではなく「調整の往復を減らすほうが安い」という比較になります。請求書の来ない支出を可視化することは、採用に限らず、中小企業の経営で効いてくる作業だと感じています。
この積み上げをしたあとに変わるのは広告の出し方ではなく、応募が来てから面接当日までの段取りであることがほとんどです。日程調整、リマインド、前日の確認といった工程は、社内の誰かの片手間ではなく、決まった手順で回したほうが安く済みます。
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