内定を出し、承諾ももらった。あとは入社日を待つだけ――そう思っていた相手から、入社の二週間前になって「やはり辞退させてください」という連絡が来る。経営者の方にとって、これほど力の抜ける瞬間はないと思います。
この空白期間、内定者の側では何が起きているのでしょうか。多くの場合、面接で会ったのは社長と役員だけ。一緒に働く人の顔も、現場の空気も知らないまま、家族や前職の同僚から「その会社、大丈夫なの」と聞かれ、答えられずにいます。その不安を埋める手段のひとつが、入社前に配属先の社員と短く顔を合わせておくことです。制度を作る話ではなく、30分の予定を一回入れるだけの話として考えてみてください。
内定承諾後の空白に、顔合わせを挟む意味
内定から入社までは、在職中の方であれば1〜2ヶ月、長ければ3ヶ月以上空くこともあります。この間、会社からの連絡は入社書類の案内くらい、という状態になりがちです。事務連絡だけが届く期間が続くと、内定者の中で会社の印象は「決まった時点」で止まったままになります。
ここに社員との顔合わせを挟むと、二つのことが起こりやすくなります。ひとつは、内定者の中に「知っている人がいる職場」という具体的な像ができること。もうひとつは、会社側が入社前に相手の様子を知れることです。面接の場では出てこなかった不安や、通勤・家庭の事情が、雑談の中でこぼれることがあります。
辞退の兆候をつかむという観点では、内定辞退は直前に起きる。兆候のつかみ方と入社までのフォローもあわせてご覧ください。顔合わせは、定期連絡とは別の角度で相手の温度を測る機会にもなります。
誰を引き合わせるか
ここで一番迷うのが人選です。つい「一番しっかりしている社員」「役職のある人」を出したくなりますが、内定者が知りたいのは会社の立派さではなく、自分が明日から隣に座る人がどんな人かです。
| 引き合わせる相手 | 向いている場面 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 配属先の同僚(年次が近い) | 業務の日常を知りたいとき | 不満をそのまま語りすぎないよう一声かけておく |
| 直属の上司・リーダー | 期待される役割を確認したいとき | 面接の延長にならないよう場を分ける |
| 1〜2年前の入社者 | 入社初期の不安が強いとき | 「自分も最初は分からなかった」が伝わりやすい |
| 同じ資格・同じ経歴の社員 | 専門職・有資格者のとき | 技術談義だけで終わらないよう話題を決めておく |
中小企業では、そもそも配属先に数人しかいないこともあります。その場合は無理に選ばず、一緒に働く時間が最も長くなる人、を基準にすれば十分です。役職の有無は関係ありません。
何分で、何を話すか
長くする必要はありません。30分前後、長くても1時間。業務時間内に、できれば職場の近くで設定します。オンラインでも成立しますが、通勤経路や職場の雰囲気を見てもらいたい場合は現地のほうが向いています。
会の組み立ては、たとえば次のような配分が考えられます(仮の目安です)。
- 最初の5分:社員の自己紹介。入社年次、担当業務、一日の流れ
- 次の15分:内定者からの質問。あらかじめ「聞きたいことを考えてきてください」と伝えておく
- 最後の10分:入社初日の持ち物や集合場所など、具体的な段取りの確認
話さないことも決めておくと安心です。給与や評価、他の内定者の有無といった会社としての回答が必要な話題は、社員に答えさせず「そこは会社から改めて」と引き取る。ここを曖昧にすると、社員の言葉が約束と受け取られ、入社後に食い違いが表面化することがあります。条件面の伝え方については求人票と面接での説明がずれると、辞退されるでも触れています。
社員に事前に伝えておくこと
顔合わせがうまくいかない原因の多くは、内定者側ではなく、頼まれた社員が何をすればいいか分かっていないことにあります。当日「じゃあ、適当に話しておいて」と振られた社員は、面接官のように質問を始めるか、黙ってしまうかのどちらかになりがちです。
事前に伝えたいのは次の3点です。
- これは選考ではないこと。 評価する場ではなく、相手の不安を減らす場だと明言します。合否に関わると思わせると、社員も内定者も構えてしまいます。
- 相手の情報を最小限だけ共有すること。 氏名、入社予定日、配属予定、前職の職種程度で足ります。履歴書そのものを回す必要はありません。応募者情報の扱いの線引きは応募者の個人情報、どこまで社外に出していいのかも参考になります。
- 答えられない質問は持ち帰ってよいこと。 「それは会社に確認しておきます」と言える許可を先に出しておくと、社員はその場しのぎの説明をしなくなります。
そもそも現場が採用の進行を知らない状態だと、依頼そのものが唐突になります。募集開始の時点から現場に情報を流しておく考え方は現場が「採用してるの知らなかった」を防ぐ。社内共有の最小ルールにまとめています。
盛り上げすぎると、入社後の落差になる
最後に、見落とされやすい点をひとつ。顔合わせは会社側が「来てもらう」立場なので、どうしても良い面ばかりを並べたくなります。残業はほとんどない、人間関係も良い、未経験でも丁寧に教える――その場の空気は良くなりますが、入社後に実際と違えば、その差は入社前に何も聞いていなかった場合よりも大きく響きます。
伝えたいのは、悪い話をわざわざするということではありません。「繁忙期の○月は遅くなる日もあります」「最初の1ヶ月はこの作業が中心です」といった、事実としての見通しを1つか2つ混ぜておく、という程度です。入社前に一度聞いていれば、実際に起きたときに「聞いていた通りだ」と受け止められます。期待値を揃える作業は、入社後のフォローとつながっています。入社直後に何を確認するかは入社1ヶ月面談で聞くこと。早期離職の芽をつかむ質問をご覧ください。
顔合わせは、特別な制度でも大がかりな施策でもありません。30分の予定を一回入れ、誰を出すかを決め、その社員に3つだけ伝えておく。それだけで、入社までの空白の質は変わりやすくなります。
とはいえ、この「30分の予定を入れる」こと自体が、日々の業務の中では後回しになりがちです。内定者への連絡、社員への依頼、日程のすり合わせ。面接と採否の判断は御社にしかできませんが、その前後の段取りは社外から支えられます。社外採用部では、応募の受付から日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社までのつなぎまでを採用事務局としてお引き受けしています。自社の採用のどこが詰まっているか整理したい段階でも構いません。こちらからお気軽にご相談ください。
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