応募対応を社外に任せる話を進めていくと、多くの経営者が同じところで一度立ち止まります。「応募者の名前や電話番号、履歴書を、社外の人に見せてしまって大丈夫なのか」という点です。採用の実務を手放したい気持ちはある。けれど、個人情報の扱いで問題が起きたら会社の信用に直結する。この不安は、正しい感覚だと思います。

ただ、この論点は「出していいか、悪いか」の二択ではありません。どういう位置づけで渡すのか、どこまで渡すのか、契約で何を縛るのか。この三つを分けて整理すると、判断はぐっとしやすくなります。ここでは法律の解説ではなく、発注する側が何を確認すればよいかという形でまとめます(個別の判断は、最終的には顧問弁護士や社会保険労務士にご確認ください)。

「第三者に渡す」と「委託する」は扱いが違う

個人情報保護法では、取得した個人情報を本人の同意なく第三者に提供することは原則として認められていません。ここだけを見ると、応募者情報を社外に渡すのは危ないように思えます。

一方で同法は、利用目的の達成に必要な範囲で業務を委託する場合の提供を、第三者提供とは別の枠組みで扱っています。給与計算を社労士事務所に、名簿の印刷を印刷会社に任せるのと同じ整理です。応募者への連絡や日程調整を外部の事務局に任せる場合も、この委託にあたる整理が一般的です。

ただし、委託であれば何でも自由という話ではありません。委託した側には、委託先を適切に監督する責任が残ります。つまり「外に出すかどうか」ではなく「監督できる状態で出せているか」が本当の論点です。丸投げが危ないのは、法律の話としても運用の話としても同じなのです。

もうひとつ、募集時の利用目的の明示も確認してください。求人票やエントリーフォームに「採用選考のために利用します」と書いてあれば、応募対応の委託はその目的の範囲内と考えやすくなります。逆に、選考と無関係な用途に情報が流れる設計になっていないかは、発注側が見ておくべき点です。

渡す情報は、業務に必要な範囲まで絞る

委託として整理できたとしても、持っている情報を全部渡す必要はありません。むしろ渡す範囲を絞るほど、リスクは小さくなります。

たとえば初回連絡と日程調整だけを任せるなら、必要なのは氏名・連絡先・応募職種・応募日時・応募経路あたりです。職務経歴や年齢、家族の状況、健康に関する記載までは、その業務には要りません。面接前後のフォローまで任せるなら、面接日時と面接官、当日の持ち物など進行に関わる情報が加わります。内定・入社フォローの段階では入社日や必要書類の状況が必要になりますが、給与額の詳細まで共有すべきかは会社ごとの判断です。

大切なのは、「工程ごとに必要な項目を書き出してから渡す」という順番です。先に情報を全部共有してから業務を切り分けると、どうしても余分な情報が流れます。業務の切り分けが先です。この考え方は採用担当の業務を全部書き出してみる。内製と外注の分け方でも触れているので、あわせてご覧ください。

業務委託契約で確認したい条項

契約書を隅から隅まで読み解く必要はありませんが、次の項目が書かれているかどうかは必ず確認してください。書かれていなければ、追記を依頼すればよいだけの話です。

確認項目何を見るか
委託業務の範囲どの工程を任せるかが具体的に列挙されているか。「採用に関する業務」だけでは範囲が曖昧
取り扱う情報の項目提供する個人情報の種類が明記されているか
再委託の可否無断の再委託を禁じているか。認める場合は事前承諾と同等の義務が及ぶか
保管場所と管理方法どのシステムに保存されるか。アクセスできる担当者が限定されているか
保管期間と削除・返却契約終了時にデータをどうするか。削除の完了報告があるか
秘密保持と契約終了後の効力契約が終わったあとも義務が続くか
事故時の連絡漏えいの疑いが生じたとき、いつ誰に報告されるか

特に見落とされやすいのが、再委託と保管期間です。応募者データが委託先のさらに先の事業者に渡っていないか、選考が終わった応募者の情報がいつまで残るのか。この二点は口頭で確認するだけでも、相手の管理水準がかなり見えてきます。

なお、外注そのものへの不安の整理は採用を外注するのが不安な社長へ。失敗しない任せ方で扱っています。情報管理は不安の一部であって、全部ではありません。

社内側で決めておくこと

意外に思われるかもしれませんが、情報の扱いが乱れやすいのは委託先より社内であることが少なくありません。応募者の履歴書が個人のメールボックスに散らばっている、面接官に候補者情報を私用のメッセージアプリで送っている、退職した担当者のアカウントに応募履歴が残っている。こうした状態のまま外注を検討しても、線引きは引けません。

決めておきたいのは三つです。

ひとつ目は、社内で応募者情報を見られる人の範囲。全社員が見られる共有フォルダに履歴書を置いていないかを確認してください。

ふたつ目は、面接官への渡し方。面接官が必要なのは、その面接を判断するための情報だけです。渡す媒体(社内システムか、印刷物か)と、面接後の扱い(回収するのか、破棄するのか)をルールにしておきます。

三つ目は、保管期間です。不採用となった応募者の情報をいつまで持つのか。再応募の連絡に使うなら、その旨を応募時に伝えておく必要があります。期限を決めていない会社が、実は一番多いように感じます。

この三つが決まっていれば、委託先に対しても「うちはここまでしか渡さない」と明確に言えます。管理の主導権は発注側にあります。

情報管理は、契約書より運用で決まる

弊社の社外採用部でも、初回設計費のなかで最初に行うのは、どの工程を任せるか、そのためにどの項目を共有するかの線引きです。月額49,800円〜という料金の話より前に、この確認から入ります。応募通知の受け先を事務局に切り替えるのか、社内で受けてから転送するのか。仮に月20件の応募がある会社なら、この一点の設計だけで情報の流れ方が変わります。

責任者である佐々木純平代表がお伝えしたいのは、「契約書で守れるのは事故が起きたあとの責任の所在で、事故そのものを減らすのは日々の運用です」ということです。渡す情報を絞る、アクセスできる人を限る、終わった情報は消す。この三つが回っていれば、過剰に構える必要はありません。

なお、任せる範囲によって情報管理の設計も変わります。担う業務の違いは採用代行(RPO)と採用事務局は何が違うのかで整理しています。

応募者の情報をどこまで社外に出すか。この線引きは、会社の状況によって答えが変わります。自社の場合はどう設計すべきか迷われている段階でも構いません。まずはご相談からお気軽にお声がけください。現状の情報の流れを一緒に洗い出すところからお手伝いします。