半年、一年と来てもらっている派遣スタッフが、もう職場に欠かせない存在になっている。仕事ぶりも人柄も分かっているので、いっそ社員として迎えたい。そう考えたとき、休憩中に「うちの社員にならない?」と声をかけてよいのか迷う経営者の方もいらっしゃるでしょう。

新しく応募してきた人を採用する場合とは違い、この場面では本人と自社のあいだに派遣会社が入っています。本人の雇用主は派遣会社です。そのため、誰に、どの順番で、何を伝えるかを先に決めておかないと、本人を困らせたり、派遣会社との関係がこじれたりすることがあります。この記事では、契約上の判断は専門家に委ねる前提で、実務の段取りに絞って整理します。

本人に声をかける前に、社内と契約書で確かめること

最初にやることは、本人への打診ではなく社内の準備です。具体的には次の3点を固めておきます。

一つ目は、迎える枠です。正社員なのか、契約社員やパートなのか。配属や仕事の範囲は派遣のときと同じなのか、広がるのか。ここが決まっていないと、条件を聞かれても答えられません。

二つ目は、条件の幅です。給与をいくらから提示できるか、上限はどこか。決裁者は誰か。社長が一人で決める会社でも、総務や現場責任者と数字をそろえておくと、あとで話が食い違いにくくなります。

三つ目が、派遣会社との契約書の確認です。直接雇用に切り替える場合の取り決めが、基本契約や個別契約に書かれていることがあります。紹介手数料の定め、事前の申し出の方法、契約期間の途中で切り替える場合の扱いなどです。契約上・法律上の扱いは、派遣元の担当者と社労士などの専門家に必ず確認してください。 この記事で扱うのは、その確認を踏まえたうえでの進め方です。

派遣会社への相談と、本人への打診の順番

順番として無理が出にくいのは、「派遣会社に相談してから、本人に正式に打診する」流れです。本人に先に話すと、本人は雇用主である派遣会社に黙って転職の話を進めている状態になり、板挟みになることがあります。また、手数料などの取り決めを知らないまま条件を口にしてしまうと、あとで引っ込めることになりかねません。

一方で、本人にまったくその気がないのに派遣会社と話を進めても、手間が無駄になります。本人の意向をどう確かめるかも含めて、派遣会社の担当者に相談するのが現実的です。派遣会社によっては、担当者から本人へ意向を聞いてもらえる場合もあります。

段階誰と何をするか
1社内迎える枠、条件の幅、決裁者を決める
2契約書直接雇用に関する定めと手数料の有無を読む
3派遣会社切り替えたい意向を伝え、手数料・時期・本人への確認方法を相談する
4本人条件を書面で示して正式に打診する
5本人・派遣会社返事を受け、派遣契約の終了日と入社日をそろえる

紹介手数料が発生する場合、その額が提示する年収に連動する定めになっていることもあります。その場合、本人への提示額を上げると手数料も上がる仕組みになるため、条件の幅を決める段階で手数料も含めた総額で考えておくと判断がぶれません。直接採用との費用の比べ方は、紹介予定派遣で採用する選択肢は、中小企業に合うかでも整理しています。

条件は「派遣のときと比べて」どう見えるかで出す

本人は提示された条件を、いま受け取っている派遣の時給と並べて見ます。ここで起きやすいのが、「社員になったら手取りが下がる」と受け取られることです。月給を時給に割り戻すと、派遣の時給より低く見える場合があるためです。

ただ、直接雇用になると賞与や交通費、昇給、退職金など、時給だけでは見えない部分が変わることがあります。逆に、派遣会社で付与されていた有給休暇は、雇用主が変わるため扱いが変わります。良い面も変わる面も、年額や項目ごとに並べて示すと、本人が判断しやすくなります。

比べる項目伝えておきたいこと
給与時給換算ではなく、年額の見込みで示す
賞与・昇給有無と、決まり方の目安
交通費・手当派遣のときとの違い
社会保険加入先が変わること
有給休暇派遣元での日数がどう扱われるか(社労士に確認のうえで説明)
仕事の範囲社員になって増える責任や業務があるか
試用期間設けるか、設けるなら期間と理由

試用期間は、すでに働きぶりを見ている相手に設けると「まだ疑われているのか」と受け取られることがあります。設けるなら、その理由と期間中の待遇を言葉にしておきましょう。伝え方は試用期間をどう説明するか。不安にさせない伝え方が参考になります。

条件は口頭だけで済ませず、書面で渡すことをおすすめします。毎日顔を合わせる相手だからこそ、言った言わないの行き違いは関係に響きます。書面に入れる項目は内定通知書の書き方。書く項目と、口約束が辞退を招く理由で確認できます。

返事を待つ期間と、断られたときの扱い

返事の期限は、1〜2週間程度を目安に、本人と相談して決めるとよいでしょう。本人は家族と相談したり、雇用主である派遣会社と話をしたりする必要があります。即答を求めると、条件を十分に検討できないまま決めることになり、入社後の不満の種になることがあります。

待つあいだに気をつけたいのは、職場で毎日会う相手への接し方です。「考えてくれた?」と顔を見るたびに聞けば、本人にとっては催促になります。期限の日に返事をもらう約束をしたら、その日まではこちらから話題にしない、と決めておくと双方が楽になります。質問があればいつでも聞いてほしい、とだけ伝えておけば十分です。

そして、打診の時点ではっきり伝えておきたいのが「断っても、これまでどおり派遣として来ていただいて構わない」という一言です。断ったら居づらくなるのでは、という不安があると、本人は本音で考えられません。実際に断られた場合も、態度を変えずに接することが、その後の職場の空気を保つことにつながります。

切り替え日までの段取り

承諾をもらったら、派遣契約の終了日と入社日をそろえます。本人は派遣会社との雇用関係を終える手続きが必要になるため、日付は派遣会社と本人の三者で確認しておきましょう。契約期間の途中で切り替えるのか、満了を待つのかで扱いが変わることがあるため、ここも派遣元への確認事項です。

入社書類の準備、社会保険の手続き、社員証や名刺、席や備品の扱いなどは、通常の入社と同じように進めます。同じ職場で働き続ける人ほど、「もういるから」と受け入れ準備が省かれがちです。所属が変わった日を、本人にとっての区切りとして迎える準備をしておくと、気持ちの切り替えにもなります。

派遣で来ている人を迎え入れる場面がある一方で、そもそも自社で直接人を採れる体制を整えたい、という課題をお持ちの会社もあるでしょう。株式会社Talencoの「社外採用部」は、求人やスカウトの運用といった母集団形成から、応募の受付、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社フォローまで、面接と採否の判断以外の採用実務を社外から支える採用事務局です。自社での採用体制にお悩みでしたら、お問い合わせからお気軽にご相談ください。