面接が終わった直後は、誰がどんな話をしたかはっきり覚えているものです。ところが一週間後、三人目の候補者と会ったあとに最初の人の話を思い出そうとすると、印象しか残っていない。「感じは良かった」「少し心配な感じがした」という言葉だけが手元にあって、なぜそう思ったのかが出てこない。中小企業の面接では、よくあることです。
記録を残すというと、立派な評価制度や録音機材の話に聞こえるかもしれません。ただ実際に必要なのは、候補者同士を並べて比べられること、そして自分以外の人にも話の中身が伝わることの二点です。この記事では、手書きメモ・評価シート・録音という三つの手段の向き不向きと、録音する場合の伝え方・残し方・消し方を整理します。
記憶だけで決めると、何が起きるか
面接官の記憶に頼った選考では、次のようなことが起きやすくなります。
ひとつは、比較ができないことです。候補者が二人以上いるとき、「どちらがよいか」を判断するには同じ観点で両者を見た材料が要ります。記憶は新しいほうが鮮明なので、後に会った人が有利になりがちです。
もうひとつは、引き継げないことです。社長が一次面接をして現場責任者が二次を担当する場合、一次で何を確認済みなのかが伝わらなければ、二次で同じ質問が繰り返されます。候補者からすれば「前も話したのに」となり、温度は静かに下がります。
三つめは、後から説明できないことです。不採用の理由を社内で聞かれたとき、採否の判断根拠が一行も残っていないと、「なんとなく」としか答えられません。選考基準が社内でそろっているかを点検するときにも、記録がないと検証のしようがありません。
関連して、面接評価シートの作り方。「なんとなく良かった」で終わらせないもあわせてご覧ください。
メモ・評価シート・録音の向き不向き
記録の手段は、目的によって向き不向きが分かれます。全部やる必要はなく、自社の悩みに合うものを選べば十分です。
| 手段 | 向いていること | 向かないこと |
|---|---|---|
| 手書きメモ | その場で気づいたことを拾う。質問の流れを追う | 他人が読めない。比較に使えない |
| 評価シート | 候補者を同じ観点で並べる。社内で基準をそろえる | 発言の細かいニュアンスは残らない |
| 録音・録画 | 言葉そのものを残す。同席できなかった人への共有 | 聞き直す時間がかかる。同意と保管の手間が増える |
実務として現実的なのは、メモ+評価シートの組み合わせです。面接中は手元のメモに気づいたことを書き、終了後5分で評価シートに転記する。ここまでで、比較と引き継ぎの大半は足ります。録音は、その上でどうしても必要な場面に限って足すもの、と考えると判断しやすくなります。
録音を検討したくなるのは、たとえば面接官が一人しかおらず、その場で記録を取る余裕がない場合。あるいは、現場責任者が面接に同席できず、技術的な受け答えを後から確認してほしい場合などです。逆に、「念のため全部残しておく」という理由だけで始めると、聞き直されないデータが溜まり続け、管理だけが重くなります。
録音するなら、最初の30秒で伝える
録音する場合、黙って録るのは避けてください。候補者に知らせずに録音したことが後で分かると、選考内容そのものより会社への不信が残ります。面接の冒頭、着席して名乗ったすぐ後に、短く伝えるのが実務的です。
伝える内容は、次の三点に絞れば足ります。
- 録音すること「本日のお話を録音させていただいてもよろしいでしょうか」
- 目的「同席できなかった現場の責任者に内容を共有し、選考の判断に使わせていただくためです」
- 扱い「選考に関わる者以外には共有せず、選考が終わりましたら削除します」
その上で、「お断りいただいても選考に影響はありません」と添えてください。この一言があるかないかで、候補者の受け止めは変わります。断られた場合は録音せず、メモで進めれば問題ありません。断られたこと自体を評価に反映させないよう、社内で先に決めておきます。
同意を得たこと、あるいは断られたことは、評価シートの端にチェック欄を作って残しておくと確実です。口頭だけだと、半年後に「同意を取ったか」が分からなくなります。
オンライン面接の録画は、一段重く扱う
オンライン面接では、会議ツールのボタンひとつで録画ができてしまいます。手軽なぶん、扱いは対面の音声録音より重くなると考えてください。
理由は三つあります。映像には表情や自宅の背景など、選考に必要のない情報が含まれること。クラウド上に保存され、URLを知る人なら誰でも見られる状態になりやすいこと。そして、ツールによっては自動で文字起こしが生成され、別の場所に残ることです。
録画する場合も、伝える内容は対面と同じです。加えて、保存先(クラウドか端末か)と、閲覧できる人の範囲を社内で先に決めておきます。「選考に関わる者のみ」と候補者に伝えた以上、社内の共有フォルダに置きっぱなしにするのは約束と食い違います。
なお、応募者の情報を社外の委託先と共有する場合は、別の論点が加わります。応募者の個人情報、どこまで社外に出していいのかで、委託と第三者提供の違いを整理していますので、外部に対応を任せている会社は先に確認しておくと安心です。
いつ消すか。保存期間を先に決めておく
記録で一番抜けやすいのが、削除のルールです。残すことは決めても、消すことは誰も決めない。結果として、三年前の応募者の録音データがパソコンの中に眠っている、という状態になります。
実務としては、記録の種類ごとに保存期間を先に決め、紙一枚に書いて共有しておくのが確実です。たとえば次のような形です(期間はあくまで仮の例で、自社の再応募の頻度や社内規程に合わせて決めてください)。
- 録音・録画データ:採否の決定後に削除する。長くても数週間
- 評価シート:一定期間保管し、再応募時の参照に使う
- 手書きメモ:評価シートに転記した時点で処分する
録音は「判断に使い終わったら消す」が基本です。一方、評価シートのような要約された記録は、しばらく残しておくほうが実務の役に立ちます。過去に会った方が再び応募してきたとき、前回何を話したかが分かると対応が変わるためです。この点は過去に不採用にした人が再応募してきたときの扱いでも触れています。
保存期間を決めるときは、「誰が消すか」までセットで決めてください。期間だけ決めて担当を決めないと、消されないまま残ります。月1回、採用の振り返りをする場があるなら、そのついでに削除の確認を入れてしまうのが現実的です。
なお、個人情報の保管や削除について法令上の判断に迷う場合は、顧問の社会保険労務士や弁護士、お住まいの地域の相談窓口に確認することをおすすめします。
面接そのものと採否の判断は、会社にしかできない仕事です。一方で、記録の様式を整える、面接前後の連絡を切らさない、候補者ごとの履歴を一箇所にまとめておく——こうした段取りは、社外から支えることができます。
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