求人を出しても、欲しい経験を持った人からの応募が来ない。たまに届くのは未経験の方ばかりで、現場に相談すると「教える余裕はない」と返ってくる。そのまま掲載を続けて二か月、三か月と過ぎていく——よくある状況です。

このとき経営者の頭にあるのは「要件を下げるべきか」という問いだと思います。ただ、要件を下げるかどうかは結論であって、判断の前提ではありません。前提になるのは、経験者を待ち続けることで払うコストと、未経験を採って育てることで払うコストのどちらが自社にとって軽いかという比較です。この記事では、その比較のしかたと、決めたあとに実務がどう変わるかを整理します。

どちらを選んでも、コストはかかっている

経験者を待つ判断は、一見すると何も払っていないように見えます。掲載費は出ていきますが、教育の手間も指導役の時間も発生しません。だから「もう少し待ってみよう」は選びやすい選択肢です。

しかし実際には、欠員が埋まらない期間にもコストは積み上がっています。既存社員の残業、受けられなかった仕事、断った案件、そして疲弊した社員が辞めるリスク。これらは請求書として届かないぶん見えにくいだけで、確かに出ていっています。この「見えない支出」を月額に換算する方法は欠員1人のまま回すと、毎月いくら失っているのかで扱っていますので、自社の数字を出す際に参考にしてください。

一方、未経験採用のコストは請求書ではなく「時間」の形で現れます。指導役が手を止める時間、やり直しの時間、一人前になるまで生産性が上がりきらない期間。こちらは見えやすいぶん、現場から反対されやすいという性質があります。

判断が偏りやすいのは、このコストの見えやすさに差があるからです。まずは両方を同じ土俵に並べるところから始めます。

経験者を待つ場合と、未経験を採る場合の比較

比較する項目を、採用にかかる期間だけでなく入社後まで広げて並べます。下の表は考え方の枠組みで、期間や工数は自社の実態に置き換えてご覧ください。

項目経験者を待つ未経験を採って育てる
採用までの期間長くなりやすい。母集団が限られる短くなりやすい。応募数は増えやすい
空席期間の負担長く続く。残業・機会損失が積む比較的早く緩和しやすい
入社直後の戦力早期に立ち上がりやすい数か月は指導役の時間を使う
必要な社内資源面接の判断力・処遇の柔軟性教育担当・手順書・見守る余力
定着のしやすさ条件面で他社と比較されやすい期待値をそろえられれば定着しやすい
応募対応の手間件数は少ないが1件の重みが大きい件数が増え、選別と連絡の工数が増える

仮の数字で考えてみます。たとえば経験者が決まるまであと4か月かかり、その間の欠員コストが月20万円相当だとすると、待つことで80万円相当を負担する計算になります。一方、未経験者を今月採用し、指導役が3か月間で合計60時間を教育に充てるとして、その時給相当が3,000円なら18万円相当。この二つを並べたとき、どちらが自社にとって重いか。

もちろん、これは単純化した比較です。経験者でなければ成り立たない業務であれば、待つ以外の選択肢はありません。有資格者が要件になる職種も同様です。ここで確認したいのは、「経験者でなければ困る」のが本当に必須条件なのか、それとも「経験者のほうが楽」という希望なのかという区別です。この切り分けは求める人物像は3つに絞る。条件を並べすぎると決められないで扱っている、必須・歓迎・不問への振り分けと同じ作業になります。

3つの問いで、自社がどちらかを決める

コストを並べたうえで、最終的な判断は次の3点で決めていくことが多いです。

1. 欠員の緊急度はどれくらいか

「今月中に人がいないと受注を断る」のか、「半年以内に増員できればよい」のか。前者なら待つコストが重すぎるため、未経験も含めて母集団を広げる判断に傾きます。後者であれば、経験者を待ちながら要件を段階的に緩める進め方も取れます。期限がないまま待ち続ける状態がいちばん消耗しますので、「いつまでに決まらなければ要件を緩める」という日付を先に決めておくことをおすすめします。

2. 教える人がいるか

未経験採用で失敗しやすいのは、教育担当を決めないまま人だけ入れてしまうケースです。「現場のみんなで見る」は、実際には誰も見ていない状態になりがちです。名前を出して一人決められるか。その人の業務を一時的に減らせるか。ここに答えが出せないうちは、未経験採用の準備は整っていないと考えたほうが安全です。

3. 現場に「待つ」余力が残っているか

既存社員がすでに残業続きで、休みも取れていない。そんな状態で「あと数か月待つ」と伝えれば、採用より先に退職が出かねません。逆に、現場が何とか回っていて教育に時間を割けるなら、育てる選択は現実味を持ちます。現場の余力は、待つ側にも育てる側にも効いてくる共通の条件です。

決めたあと、募集要件と応募対応が変わる

どちらを選ぶかは、求人原稿を直して終わりではありません。応募が来たあとの対応の中身が変わります。

経験者を待つと決めた場合、応募数は少ないままです。1件あたりの重みが増えますから、初回連絡の速さと丁寧さが結果を左右しやすくなります。経験者は在職中であることが多く、複数社を並行して検討しているのが普通です。初回連絡では、経験の中身(どの工程を、どの規模で、何年)と入社可能時期を押さえたうえで、処遇の幅を早めに伝えておくと比較の土俵に乗りやすくなります。

未経験を採ると決めた場合は、応募件数が増え、要件から外れた応募も混ざります。ここで対応が追いつかなくなると、せっかく広げた母集団を取りこぼすことになります。詳しくは応募条件を緩めると応募は増えるが、対応の手間も増えるで整理していますが、要点は「面接前に電話で確認できる項目を決めておく」ことです。

未経験採用の初回連絡で確認しておきたい項目の例です。

これらを面接前に確認しておくと、面接の場を「見極め」ではなく「すり合わせ」に使えます。未経験採用は入社後の期待値のずれが離職に直結しやすいため、応募の段階から入社後の話をしておくことが、結果として定着につながりやすくなります。

判断を保留にしないために

経験者か未経験か、どちらが正解ということはありません。緊急度が高く教育担当がいるなら育てる方向へ、待てる余裕があり教える人がいないなら経験者を探し続ける方向へ。自社の条件を並べれば、答えはそれほど割れないことが多いものです。

問題は、判断を先送りにしたまま掲載だけ続いてしまう状態です。そうなる背景には、応募が来ても対応が追いつかず、そもそも母集団の質を評価できていないという事情が隠れていることもあります。未経験まで広げて応募を増やしても、初回連絡が翌日以降にずれていれば結果は変わりません。

社外採用部は、応募の受付から初回連絡、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社までの候補者対応を、貴社の採用事務局として代行するサービスです(月額49,800円〜、初回設計費100,000円、以降は支援内容・工数に合わせて個別にお見積り)。未経験まで間口を広げたときの応募件数の増加も、経験者1件を逃さない初動も、対応の手が足りないことが理由で取りこぼさないようにする役割です。要件をどう設定するかを決めたあと、その要件で来た応募をどう受けるか。そこにお悩みがあれば、お問い合わせからご相談ください。現在の応募状況をうかがったうえで、設計の考え方をお伝えします。