「来月から採用も見てほしい」。社長からそう言われて、総務や管理部門の方が採用担当を兼ねることになる。中小企業では珍しくない話です。ただ、任された側からすると、何から手を付ければいいのかの見当がつきません。採用の教科書を開けば求人原稿の書き方が最初に出てきますし、媒体の営業担当も原稿の相談から入ってきます。

その結果、多くの方が最初の1ヶ月を「求人原稿の書き直し」に使います。けれど、応募はすでに来ているのに面接まで進んでいない会社の場合、原稿を直しても状況はあまり変わりません。ここでは、採用担当になって最初の90日を、1ヶ月目・2ヶ月目・3ヶ月目の順でどう使うかを整理します。

求人原稿から始めたくなる、その気持ちの正体

求人原稿は、採用業務のなかで唯一「目に見える成果物」です。書き上げれば社長に見せられますし、着任早々の仕事として形になります。だから最初に手が伸びる。これは自然なことです。

ただ、原稿は応募を集める工程の話であり、応募が来たあとに何が起きているかとは別の話です。「応募は月に数件来ている。でも面接に進んだのは1件」という状態のまま原稿だけを新しくして、翌月も同じ結果になった、という経験をお持ちの会社は少なくありません。

着任直後にやるべきは、書くことではなく「見ること」です。いま自社で何が起きているのか、事実を並べる。90日の使い方は、おおよそ次のような順番になります。

時期やることできあがるもの
1ヶ月目応募と対応履歴の棚卸し現状が一枚で分かる記録
2ヶ月目連絡文と面接枠の整備迷わず動ける手順とテンプレート
3ヶ月目数字の定点化社長に毎月出せる報告の型

着任してすぐ、社長に確認しておく決裁の範囲

棚卸しより前に、5分で済むけれど後々効いてくる確認があります。それは「自分はどこまで自分の判断で動いていいのか」です。

採用担当を置いても応募対応が速くならない会社の多くは、担当者が一件ごとに社長の判断を仰いでいます。候補者に連絡する前に社長のデスクへ行き、社長は打ち合わせで外出中。それだけで半日から一日が消えます。

着任時に確認しておきたいのは、次の4つです。

この4つが決まっていれば、日々の対応の大半は担当者の手元で完結します。決めていないと、すべてが「社長待ち」になります。決裁の線引きの考え方は採用の決裁ラインを決める。誰が最終判断するかで連絡は速くなるでも詳しく扱っています。

あわせて、採用にかけられる年間の予算と、いつまでに何人採りたいのかも聞いておきます。ここが曖昧なまま動くと、3ヶ月目の報告で「で、これはうまくいっているの?」という会話になりがちです。

1ヶ月目:応募と対応履歴を棚卸しする

1ヶ月目の仕事は、過去3〜6ヶ月の応募を一件ずつ並べることです。使うのはExcel一枚で足ります。

並べる項目は、応募日時/媒体/職種/初回連絡をした日時/連絡手段/面接に進んだか/その後どうなったか、の7つ程度。メールボックスと通話履歴、手元のメモをたどりながら埋めていきます。

この作業をすると、たいてい二つのことが見えてきます。ひとつは、記録が残っていない応募がかなりの数あること。もうひとつは、応募日時と初回連絡日時の間が、想像していたより空いていることです。

仮の数字で説明します。過去3ヶ月で応募が18件、うち面接まで進んだのが4件だったとします。この4件と、進まなかった14件の初回連絡までの時間を比べてみる。進んだ4件は当日か翌朝に連絡が取れていて、進まなかった14件のうち半分は連絡までに2日以上空いていた——こうした傾向が見えることがあります。もちろん、たまたま候補者側の事情が重なっただけの場合もあるので、決めつけは禁物です。ただ、「原稿を直すべきか、対応を直すべきか」の当たりはつきます。

この時点で結論を出す必要はありません。1ヶ月目は「自社の応募はこういう流れで動いている」という地図を持つことが目的です。より丁寧に見たい場合は、応募から入社までのフロー図を描くと、課題は一目でわかるの手順が使えます。

2ヶ月目:連絡文と面接枠を整える

棚卸しで「初回連絡が遅れがち」「連絡文を毎回ゼロから書いている」と分かったら、2ヶ月目はその二つを直します。

まず連絡文です。応募受付の返信、電話がつながらなかったときのSMS、面接日程の案内、前日リマインド、不採用連絡。この5つの型があるだけで、対応にかかる時間は大きく縮みます。長い文章は要りません。誰が読んでも同じ内容が伝わる短い文を、社内の共有フォルダに置いておく。作り方の最小構成は応募対応マニュアルの作り方。1日で書ける最小構成にまとめています。

次に面接枠です。応募が来てから面接官の予定を探しに行くと、候補日を出すまでに数日かかります。そうではなく、たとえば毎週火曜と木曜の16時〜18時を面接用に仮押さえしておく。応募が来たその場で「今週の木曜16時か、来週火曜の16時はいかがでしょうか」と言えるようになります。埋まらなかった枠は前日に解放する、というルールをセットにしておけば、現場の負担も抑えられます。

このとき、自分の1日のなかで応募対応をいつやるかも決めておきます。総務の仕事の合間に「手が空いたら」では、いつまでも後回しになります。朝一・昼過ぎ・夕方の3回、それぞれ15分ずつ予定表に入れてしまうやり方が現実的です。

3ヶ月目:数字を定点化して、報告の型をつくる

3ヶ月目は、1ヶ月目に作った記録を「毎月続ける形」に落とし込みます。

見る数字は多くなくて構いません。応募数、初回連絡までの平均時間、面接設定率(応募のうち面接に進んだ割合)、内定承諾率。この4つがあれば、社長との会話は成立します。面接設定率の考え方は面接設定率という指標。応募からの歩留まりを測る第一歩で解説しています。

大事なのは、数字を集めることではなく「先月と比べてどうか」を見られるようにすることです。1ヶ月目の棚卸しが出発点になります。3ヶ月目の時点で初回連絡までの時間が縮んでいれば、2ヶ月目にやったことは効いていた、と言えます。変わっていなければ、面接枠の仮押さえが機能していないのか、通知の見落としがあるのか、別の原因を探します。

そして、この報告をA4一枚に収めて月に一度社長に出す。ここまで来ると、採用担当としての仕事の形が社内に認知されます。「原稿を書く人」ではなく「採用の状況を把握している人」になる、ということです。


90日でできるのは、ここまでです。採用のすべてが整うわけではありませんし、この間にも応募は来て、対応の手は止められません。実務を回しながら棚卸しと整備を同時に進めるのは、兼務の担当者にとって相当な負荷です。

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