「面接は終わっているのに、合否の連絡がまだ出せていない」。そんな状態が数日続いて、その間に候補者が他社を決めてしまった——採用の現場でよく起きる出来事です。原因を担当者の怠慢や多忙に求めたくなりますが、詳しく見ていくと、多くは別のところに理由があります。担当者は連絡を止めているのではなく、「自分が出していい連絡かどうか分からない」まま止まっているのです。
応募対応のスピードを上げようとすると、通知の仕組みや文面のテンプレートに目が向きがちです。ただ、それらを整えても速くならない工程があります。判断が要る場面です。誰が決めるのかが曖昧なままだと、どれだけ道具を揃えても、判断待ちの時間だけがそのまま残ります。
遅れているのは「判断」ではなく「誰が決めるか」の未決
社長に確認を取ろうとして取れない、というのは待ち時間の一部にすぎません。もっと根深いのは、担当者が「これは確認が必要な案件なのか、自分で進めていい案件なのか」を毎回ゼロから考えている状態です。この迷いは、社長が席にいても発生します。
たとえば、書類を見て明らかに要件を満たしていない応募者がいたとします。担当者が「見送りでいいと思うが、社長が会ってみたいと言うかもしれない」と考えると、その一件は社長への確認待ちに入ります。確認のために会話の機会を待ち、返事をもらい、それから連絡文を作る。実際の判断は5秒で済む内容でも、社内を一往復させるだけで半日から数日が流れます。
同じことが、一次面接の通過判定でも、内定を出すかどうかでも、提示する給与額でも起きています。判断の難易度ではなく、判断の権限が決まっていないことが時間を食っているわけです。
裏を返せば、「この範囲なら担当者が決めてよい」という線を一度引いておくと、確認の往復そのものが消えます。応募対応の速度は、文面の準備より決裁ラインの整備で変わる部分が大きい、というのが支援の現場で繰り返し感じることです。
4つの場面で、決裁者を先に決めておく
採用の流れの中で判断が要る場面は、そう多くありません。中小企業の場合、書類選考・一次通過・内定・条件提示の4つを押さえておけば、日常の対応はほぼカバーできます。この4つについて、「誰が決めるか」「担当者がどこまで自分で進めてよいか」を紙一枚に書き出します。
以下は、社長・現場責任者・採用実務担当の3者がいる会社を想定した記入例です。自社の体制に合わせて役職名を置き換えてお使いください。
| 場面 | 最終決裁者 | 担当者の裁量範囲 | 目安の返答期限 |
|---|---|---|---|
| 書類選考 | 採用実務担当 | 必須要件を満たさない応募の見送りは担当判断。要件を満たす応募は原則そのまま面接設定へ | 応募当日 |
| 一次面接の通過 | 現場責任者 | 面接同席者の評価が一致した場合は担当が通過連絡を送付。割れた場合のみ責任者へ | 面接の翌営業日まで |
| 内定を出すか | 社長 | 内定判断そのものは社長。ただし内定連絡の実行と日程調整は担当 | 最終面接から2営業日 |
| 条件提示(給与・入社日) | 社長 | 求人票に記載した範囲内の金額・条件は担当が提示可。範囲外は社長判断 | 内定連絡と同時 |
この表で大事なのは、右の2列です。決裁者だけを決めても、「じゃあ担当は何ができるのか」が書かれていなければ、結局は全件が上に上がってきます。担当が自分で進めてよい範囲を具体的に書くことで、はじめて確認の往復が減ります。
書類選考の基準づくりについては書類選考で落とす基準を決めておくと、対応が速くなるで詳しく扱っています。基準と決裁ラインはセットで、基準が紙になっていないと担当に裁量を渡しづらくなります。
裁量範囲は「金額と条件」まで具体的に書く
決裁ラインが形だけになる典型は、「常識の範囲内で担当が判断」といった書き方です。常識の範囲がどこまでかは人によって違うので、結局は確認が発生します。
特に条件提示は、数字で線を引いておく価値が大きい場面です。仮の数字で例を挙げます。月給25万円〜30万円で求人を出している職種であれば、「経験年数と保有資格が求人票の記載どおりなら、担当が27万円まで提示してよい。28万円以上と、入社日を2ヶ月以上先に設定する場合は社長判断」といった形です。金額の線と、金額以外の条件(入社日、勤務地、試用期間の長さ、シフトの固定)の線を、それぞれ書いておきます。
候補者から条件面の相談を受けたとき、この線があれば担当はその場で「その条件でしたら問題ありません」と答えられます。線の外であれば「持ち帰って◯日までにご返答します」と期限を切って返せます。どちらも候補者にとっては誠実な対応です。逆に、線がないと「確認します」とだけ答えて、いつ返事が来るか分からない状態に候補者を置くことになります。
もうひとつ、目安の返答期限も決裁ラインの一部として書いておきます。決裁者を決めても、その人がいつまでに返すかが決まっていなければ滞留は起きます。「面接翌営業日まで」といった期限を書き、期限を過ぎたら担当から催促してよい、と明記しておくのが実務的です。合否連絡のスピード感については面接の合否連絡は何日以内に出すべきかもあわせてご覧ください。
社長不在時の暫定判断ラインを、先に決めておく
中小企業の採用でもっとも止まりやすいのは、社長が出張・現場・来客で捕まらない時間帯です。ここを「社長が戻るまで待つ」運用にしていると、応募が来るたびに数日単位の空白が生まれます。
そこで、通常の決裁ラインとは別に、社長不在時の暫定ラインを先に決めておきます。ポイントは、不在になってから相談するのではなく、平時に「この条件までは担当が進めてよい」と決めておくことです。
暫定ラインの作り方は難しくありません。通常ラインの一段下、つまり「後から取り消しにくい決定」だけを社長に残し、それ以外を担当に開放します。たとえば次のような線引きです。
- 進めてよい:面接日程の確定、面接の実施、次のステップの案内、不採用の連絡(要件を明らかに満たさない場合)
- 進めてよい:求人票の範囲内での条件説明、入社日の候補提示(確定はしない)
- 社長に残す:内定を出す決定、求人票の範囲を超える条件の確約、不採用理由の詳細な説明
内定は取り消しにくい決定なので社長に残す。一方で、面接を進めることは後から軌道修正できるので担当に開放する。この区別で線を引くと、実務が止まりにくくなります。
そのうえで、社長が不在になる予定が分かっている期間については、「この期間に最終面接まで進んだ候補者には、◯日までに社長から直接電話を入れる」と先に約束をつくっておきます。候補者を待たせる場合も、いつ返事が来るかが分かっていれば離脱は起きにくくなります。社長の時間を面接と最終判断に集中させる考え方は社長が採用面接だけに集中すると、採用は強くなるでも扱っています。
決めたラインを、運用に乗せる
決裁ラインは、決めた直後よりも運用に乗せてからのほうが大事になります。実務で押さえたいのは3点です。
ひとつ目は、置き場所です。紙一枚にまとめ、応募対応の手順書と同じ場所に置きます。担当者が迷ったときに3秒で開ける場所にないと参照されません。
ふたつ目は、例外が出たときの記録です。「このケースは担当判断でよかったのか」と迷った件を、その都度メモに残しておきます。月に一度まとめて見ると、「この種類の判断は担当に開放してよい」「ここは社長が見たほうがよい」という調整材料になります。最初から完璧な線を引く必要はなく、迷った件を材料に半年ほどかけて精度を上げていく進め方のほうが定着しやすいです。
みっつ目は、担当者が代わっても引き継げる形にしておくことです。決裁ラインが前任者の頭の中にしかないと、交代のたびに確認の往復が復活します。紙になっていれば、引き継ぎの初日から同じ速度で動けます。
決裁ラインの整備は、システムの導入や予算の増額を伴わない改善です。にもかかわらず、応募から内定までの各工程で発生していた「判断待ちの空白」を短くする効果が見込めます。応募が少ない会社ほど、一件あたりの取りこぼしが重くなります。まずは4つの場面について、誰が決めるかを紙に書くところから始めてみてください。
社外採用部では、応募の受付から初回連絡、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社フォローまでを採用事務局として代行しています。ご支援の初期には、御社の体制に合わせた決裁ラインと、担当者に渡してよい裁量範囲の整理も一緒に行います。「判断が要る場面だけ社内に残し、それ以外は外に出す」形の体制づくりにご関心があれば、お問い合わせからお気軽にご相談ください。サービス責任者の佐々木純平が直接お話を伺います。
無料相談