内定を出したあと、「入社までにこの講習を受けておいてほしい」「できれば入社前にこの資格を取っておいてほしい」とお願いしたくなる場面があります。現場に出た初日から戦力になってもらいたい、安全上どうしても必要、という事情はよく分かります。

一方で、入社前の内定者はまだ給与を受け取っていない立場です。数万円の受講料と数日分の時間を、どんな顔をしてお願いするか。ここを曖昧にしたまま話を進めると、承諾後の辞退や、入社後の不満の種になりやすくなります。この記事では、費用負担の決め方と、入社前の時間をどこまで求めてよいかの線引きを整理します。

まず「必須」か「できれば」かを分ける

費用の話に入る前に、社内で分けておきたい区別があります。その研修や資格は、業務に就くために法令や社内規程で必要なものか、それとも早く慣れるためにあると望ましいものか、という区別です。

必須のものは、本来は会社の業務遂行に必要なコストです。できればの位置づけのものは、本人の将来の選択肢を広げる面もあり、負担のあり方に幅が出ます。この線引きをせずに「とりあえず入社前に取っておいて」とまとめて伝えると、内定者からは全部が義務に聞こえます。義務に聞こえるものが増えるほど、入社のハードルは上がります。

区別できたら、必須のものは入社後に会社が段取りする前提で考え直せないかを一度検討してみてください。入社前にどうしても必要な理由が説明できないなら、入社後に回すほうが揉めごとは起きにくくなります。

費用負担の3パターンと、内定者が感じる負担感

費用の持ち方は、おおむね次の3つに整理できます。仮の数字として、受講料3万円・テキスト代5千円の講習を想定して比べてみます。

持ち方内定者側の負担感会社側の手間起きやすいこと
会社が直接支払う小さい。申込みも会社が行えば時間だけの負担になる申込・支払の事務が発生。欠席時の扱いを決めておく必要がある入社意思が固まりやすい。ただし「受けさせられている」感は残る
本人が払い、入社後に精算中程度。3.5万円を一時的に立て替える形になる領収書の確認と精算のルールづくり手元資金が厳しい方は、言い出せずに辞退へ傾くことがある
本人負担のまま大きい。入社前の収入がない時期に実費が出ていくほぼない他社と比較している候補者ほど、天秤が傾きやすい

在職中の方であれば立替も難しくないかもしれませんが、離職中の方、学校を出たばかりの方にとって、入社前の数万円は小さくありません。しかも本人から「お金が厳しいので」とは言い出しにくい性質の話です。理由を言わないまま連絡が間遠になり、気づいたときには辞退、という流れになりやすいところです。

立替後精算を選ぶ場合は、精算のタイミング(初回給与と一緒か、入社月の経費精算か)と、必要な書類を文書で先に伝えておくと、不安がかなり減ります。内定通知書の書き方。書く項目と、口約束が辞退を招く理由でも触れていますが、お金に関わる約束は口頭だけにしないほうが安全です。

入社前の時間をどこまで求めてよいか

費用と同じくらい慎重に扱いたいのが、時間のほうです。入社前の内定者はまだ自社の指揮命令下にありません。平日の3日間を研修に充ててほしい、という依頼は、在職中の方なら有給休暇を使うことを意味しますし、離職中の方なら求職活動や引越しの準備と重なります。

目安として、次のように考えると線引きがしやすくなります。

特に注意したいのは、入社前の資格取得を入社条件そのものにしてしまうことです。試験日や合格発表が入社日より後にずれるだけで、入社日の約束が揺らぎます。資格取得に数ヶ月かかる職種では、取得前提で採用し、養成期間を会社の時間として設計するほうが現実的です。この考え方はタクシー・バスの採用。二種免許なしの応募者をどうつなぐかでも整理しています。

依頼するときの伝え方も、負担感を左右します。「〜してください」ではなく、「こういう理由で必要なので、費用は会社が持ちます。日程はこの中から選んでいただけますか」と、理由・負担・選択肢をセットで伝える。同じ内容でも受け取り方が変わります。

早期退職時の費用返還は、取り決める前に専門家へ

会社が費用を負担したとき、「すぐ辞められたら困るので、1年以内に退職したら返してもらう」という取り決めを置きたくなる気持ちは自然です。ただ、この種の約束はトラブルになりやすい領域です。

労働基準法には、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じる規定があります。費用返還の取り決めがこれに触れるかどうかは、その費用が業務に必要なものか本人の利益になるものか、返還免除までの期間が合理的か、本人が自由に利用を選べたかなど、個別の事情で判断が分かれるとされています。一般論として「この形なら大丈夫」と言い切れる話ではありません。

ですから、返還条項を入れるかどうかを社内の感覚だけで決めず、顧問の社会保険労務士や弁護士に、自社の具体的な費用項目と金額、期間を示して相談してください。費用を会社負担にしたうえで返還条項は置かない、という割り切りも、実務としては十分にあり得る選択です。相談先の使い分けについては顧問社労士に採用まで相談できるのか。任せられる範囲の線引きも参考になります。

そしてもう一点。返還条項の有無にかかわらず、入社前に「辞めたら返してもらいます」という話を強調すると、内定者には信頼されていないという印象が残ります。伝える必要がある場合は、書面で淡々と示し、口頭では制度の説明にとどめるほうが関係を傷つけにくくなります。

決めたことを、誰が・いつ伝えるか

費用負担の方針が決まっても、それが内定者に届かなければ意味がありません。入社までの期間が空くほど、「結局いくら自分が払うのか」「いつ受けるのか」が宙に浮きがちです。

実務としては、内定を伝える場で方針の概要を口頭で伝え、内定通知書や労働条件の書面と一緒に、研修・資格に関する案内を1枚にまとめて渡す形が分かりやすくなります。案内に入れたいのは、対象となる研修名、必須か任意か、費用の負担者と精算方法、所要時間と日程の候補、申込みを誰が行うか、の5点です。

そのうえで、入社日までの間に一度は進み具合を確認する連絡を入れておくと、受講できていない事情に早く気づけます。連絡の頻度については内定から入社までの連絡頻度。多すぎ・少なすぎの境目で整理していますので、あわせてご覧ください。

この案内づくりと入社までのフォロー連絡は、社長や総務の手が空いたときに回しがちな仕事です。社外採用部では、母集団形成から応募受付・日程調整・面接前後のフォロー、内定から入社までのフォローまでを、採用事務局として社外から担っています。面接そのものと採否の判断は御社にお任せしたうえで、連絡が途切れない状態をつくる部分をお引き受けする形です。料金は月額49,800円〜、初回設計費100,000円で、以降は支援内容と工数に合わせて個別にお見積りします。

入社前の案内が後回しになっている、内定者への連絡が止まりがちだという会社は、お問い合わせから現在の進め方をお聞かせください。どこを社外に出せるか、一緒に整理します。