ようやく一人目の採用が決まった。けれど、ここから何をすればいいのかがよく分からない——初めて従業員を雇う会社では、採用そのものより入社手続きのほうが不安だという声は珍しくありません。これまで社長一人、あるいは家族だけで回してきた会社には、雇用に関する手続きを一度も通した経験がないからです。

この記事では、制度の細かい解釈には立ち入らず、「入社日の前後に何が発生するのか」「それぞれ誰に聞けばいいのか」という地図の部分だけを整理します。実際の手続き内容や必要書類は年度や会社の状況によって変わることがあるため、最終的な判断は窓口や専門家への確認と合わせて進めてください。

入社日より前に、書面で条件を確定させる

最初にやるべきなのは、届出ではなく書面の交付です。労働条件通知書(または労働条件を明示した雇用契約書)は、働き始める前に本人へ渡すものとされています。口頭で「月給◯万円でお願いします」と伝えただけの状態で入社日を迎えると、後から残業の扱いや休日の数え方で認識のずれが表に出てきます。

書面に書く項目は、契約期間、就業場所と業務内容、始業・終業の時刻、休憩・休日・休暇、賃金の決め方と支払日、退職に関する事項などが基本です。中小企業でつまずきやすいのは、求人票に書いた内容と書面の内容が微妙に違ってしまうケースです。求人を出した時期と内定を出した時期が離れていると、条件を少し変えたまま書面にだけ反映してしまうことがあります。求人票と面接での説明がずれると、辞退されるでも触れていますが、ずれは条件の中身そのものより、会社への信頼を削ります。

同時に、本人から集める書類の案内も早めに出しておきます。マイナンバーの確認書類、年金手帳や基礎年金番号が分かるもの、雇用保険被保険者証(前職がある場合)、扶養控除等申告書、給与振込先の情報。これらは届出の前提になるため、揃わないと手続き全体が止まります。詳しくは入社書類が揃わない。何を、いつまでに、どう集めるかにまとめています。

入社日前後に発生する届出と、その窓口

一人目を雇うときは、「その従業員の手続き」と「会社としての新規の手続き」が同時に発生します。ここが二人目以降と大きく違う点です。会社として労働保険や社会保険の適用を受けるのが初めてなら、事業所単位の届出が先に必要になります。

一般に案内されている期限の目安を、窓口ごとに並べると次のようになります。

手続きの種類期限の目安窓口
労働保険(労災)の保険関係成立届成立の日の翌日から10日以内労働基準監督署
概算保険料の申告・納付成立の日の翌日から50日以内労働基準監督署など
雇用保険の適用事業所設置届・資格取得届設置は10日以内、取得は雇用した月の翌月10日までハローワーク
健康保険・厚生年金の新規適用届・資格取得届事実発生から5日以内年金事務所
給与支払事務所等の開設届開設から1ヶ月以内税務署

※期限や必要書類は制度改正や事業所の状況で変わることがあります。着手前に各窓口で必ず確認してください。

表を見ると分かるとおり、社会保険の5日以内がもっとも短く、入社日が決まった時点で動き始めないと間に合いにくい設定です。一方で、雇用保険は翌月10日までと少し余裕があります。「全部まとめて入社後に」と考えていると、最初に期限が来るものを取りこぼしやすくなります。

なお、法人か個人事業か、従業員の勤務時間や人数によって、社会保険の加入義務の有無は変わります。パート・アルバイトの一人目を雇う場合はとくに扱いが分かれるため、自社がどのケースに当たるかは年金事務所に直接確認するのが早い方法です。

社内に備えておく帳簿と、入社後に続く実務

届出を出して終わりではありません。従業員を雇うと、会社側で備え付けておくべき帳簿が発生します。一般に「法定三帳簿」と呼ばれるものです。

いずれも立派なシステムが要るわけではなく、Excelや市販の様式で作ることができます。大切なのは、給与計算のたびに自然と埋まる形にしておくことです。後からまとめて作ろうとすると、記憶に頼る部分が出てきます。

あわせて、入社後の実務として給与計算と源泉徴収、住民税の特別徴収の手続きが毎月回り始めます。就業規則は常時雇用する労働者の人数によって作成・届出の義務の有無が変わりますが、義務がない規模でも、労働時間や休暇の扱いを一枚にまとめておくと、二人目以降を雇うときの土台になります。残業をさせる可能性があるなら、いわゆる36協定の届出が必要になる場合もあります。

手続きと並行して、受け入れ側の準備も進みます。机や作業着、入館証、初日の集合場所と教える順番。こちらは入社初日までにやること。受け入れ準備のチェックリストに整理しています。

誰に相談するかを、先に決めておく

初めての雇用でいちばん時間を取られるのは、作業そのものより「これは誰に聞けばいいのか」を調べている時間です。窓口はおおむね次のように分かれます。

どの窓口も、初めて雇う会社からの相談を前提に案内を用意していることが多く、電話で事前に必要書類を聞いてから出向くと一度で済みやすくなります。顧問税理士がいる会社なら、税務署関係はそちらに確認するのが早いでしょう。社労士に依頼するかどうかの線引きについては、顧問社労士に採用まで相談できるのか。任せられる範囲の線引きで整理しています。労務手続きと、応募者対応のような採用実務は、同じ「人のこと」でも担い手が分かれる領域です。

手続きに気を取られて、人への連絡が止まらないように

初めての雇用では、届出の準備に意識が向くあまり、内定者本人への連絡が手薄になることがあります。本人からすれば、書類の提出を求められるだけで、入社日の集合時間や初日の流れが見えないまま日が過ぎていく状態です。在職中であれば退職交渉を進めている時期でもあり、会社からの連絡が途切れると不安が増えやすくなります。

手続きの段取り表と並べて、内定から入社日までの連絡の予定も簡単に書き出しておくと、どちらかが止まることを防ぎやすくなります。たとえば仮に入社日の3週間前に内定承諾、2週間前に書類一式の案内、1週間前に初日の集合案内、前日に短い確認連絡、といった形です。内容は会社ごとに変わって構いませんが、「いつ、誰が、何を送るか」を先に決めておくことがポイントです。

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