採用を担当していた社員が退職を申し出た。あるいは急な入院や産休で、来週から出社できなくなった。そのとき最初に困るのは、進行中の応募者への対応です。誰にどこまで連絡したのか、次に何をする約束になっているのか。担当者の個人メールと個人の携帯、そして本人の記憶の中にしか残っていない。引き継ぎ資料を頼んでも、退職までの限られた時間で書けるのはせいぜい「求人媒体のIDとパスワード」くらいで、肝心の中身は言葉になりません。

これは能力の問題ではなく、構造の問題です。応募対応という仕事は、一件ごとの判断と連絡の積み重ねでできていて、その大半が形に残らないまま流れていきます。ここでは「辞める前に引き継ぎ資料を作る」のではなく、日々の記録がそのまま引き継ぎになる運用へ変える方法を整理します。

引き継ぎで消えるのは連絡先ではなく「判断」

引き継ぎというと連絡先リストや進捗表を思い浮かべますが、実際に失われて困るのはそこではありません。困るのは判断のほうです。

たとえば、経験は足りないけれど通勤距離が近く長く働けそうな応募者を、書類で落とすのか一度会うのか。前職の在職期間が短い人にどこまで踏み込んで聞くのか。希望条件が求人票より少し高いとき、その場で持ち帰ると答えるのか、社長に確認すると伝えるのか。こうした線引きを、担当者は毎回考えているわけではなく、経験の中で身体に染み込ませています。だからこそ言語化されず、引き継ぎ資料にも書かれません。

後任がまず戸惑うのもここです。連絡先は共有フォルダを見れば分かりますが、「この人は面接に呼ぶべきか」は誰も教えてくれない。結果として全件を社長に確認しにいくことになり、確認待ちの間に候補者は他社へ流れていきます。応募対応の速度が落ちる理由は、応募後1時間以内の初回連絡が、採用の歩留まりを変える理由でも触れたとおり、多くの場合こうした社内の停滞にあります。

引き継ぎ資料は、作られないし、すぐ古くなる

「余裕のあるうちにマニュアルを作っておこう」という方針は、ほとんどの中小企業でうまくいきません。理由は二つあります。

ひとつは、作る時間が取れないこと。採用担当が兼務であるほど、日々の応募対応と本業に追われ、マニュアル作成は常に後回しになります。もうひとつは、作っても古くなること。求人媒体を変えれば管理画面の手順は変わり、面接官が変われば日程調整の勝手も変わります。一度作った資料は半年で実態とずれ始め、誰も見なくなります。

ですから目指す方向は「立派な引き継ぎ資料を作る」ではありません。日常業務をこなすと、その副産物として引き継ぎに必要な情報が残っている状態を作ることです。追加の作業ではなく、記録の置き場所を変えるだけ、という発想に切り替えます。

日々の記録が引き継ぎになる、三つの仕掛け

やることは大きく三つです。特別なシステムは必須ではなく、共有のスプレッドシートと共有メールアドレスがあれば形にはなります。

一つめは、対応履歴を個人の外に出すこと。 応募者ごとに「いつ・誰が・どの手段で・何を伝えたか・次の予定」を一行ずつ残します。文章は短くて構いません。「9/3 15:20 電話つながらずSMS送信/9/4折り返し待ち」で十分です。重要なのは、これが担当者の個人メールボックスではなく、他の人が開ける場所にあることです。担当者が明日から不在でも、その一行を見れば次の一手が分かります。

二つめは、文面を共通化すること。 初回連絡、日程調整、面接前日のリマインド、不採用の連絡。この四つだけでも定型文にしておくと、後任は文面を一から考えずに済みます。定型文は品質のばらつきを抑えるだけでなく、「この会社はこういう伝え方をする」という基準そのものを残す役割を持ちます。前日リマインドの中身は面接前日のリマインドメール例文。送る内容と気をつけたい一言に具体例をまとめています。

三つめは、判断ラインを一枚に書き出すこと。 完璧な基準表は要りません。担当者が普段迷わずに決めていることを、後から質問しながら箇条書きにしていきます。

決めておくこと書き方の例(あくまで一例です)
書類で会うかどうか通勤60分以内かつ勤務曜日が合えば、経験不問で面接に呼ぶ
面接日程の提示初回連絡から24時間以内に、3つの候補日を先に出す
条件の質問への回答求人票の範囲内は即答、超える場合は「確認して折り返します」
社長に確認する範囲給与の上振れ、入社日の1ヶ月以上の後ろ倒し、勤務地の変更
不採用の連絡面接から3営業日以内に、メールで理由は簡潔に

この表があると、後任は迷いどころだけを相談すればよくなります。逆に言えば、社長が確認すべき事項を絞り込む作業でもあります。判断の分解の仕方については採用担当の業務を全部書き出してみる。内製と外注の分け方もあわせてご覧ください。

「二人目」を置く余裕がないなら、どう備えるか

理想を言えば、応募対応を二人で回し、片方が休んでももう片方が動ける状態が安全です。ただ、中小企業でその余裕がある会社は多くありません。専任をもう一人雇うとなれば、人件費は月額で数十万円単位になります。仮に月30万円としても年間360万円。応募が月に数件から十数件という規模の会社にとって、それだけの人件費を採用事務のためだけに割くのは現実的ではないことが多いはずです。

現実的な備えは、次のような順序になります。

  1. 対応履歴の置き場所を今週中に一つに決める(共有シートでも共有メールでも構いません)
  2. よく使う四つの文面を定型化する
  3. 判断ラインを一枚にまとめ、社長が目を通す
  4. その一枚を、採用に直接関わっていない社員が読んで理解できるか確認する
  5. 担当者が不在の日を意図的に作り、他の人が回せるか試す

4番と5番を飛ばさないでください。書いた本人だけが分かる資料は、引き継ぎ資料としては機能しないことが多いためです。半日でも「担当者に聞かずに回す日」を作ると、記録の抜けが実地で見つかります。

引き継ぎ先は、社内に限らなくてよい

もうひとつの選択肢が、応募対応そのものを社外の窓口に置いてしまう方法です。窓口が社外にあれば、社内の担当者が交代しても連絡履歴と文面と判断ラインはその場に残り続けます。採用担当の退職が、応募対応の断絶に直結しなくなります。

私たち社外採用部は、求人・媒体・スカウトなど母集団形成の運用から、応募の受付、初回連絡、日程調整、面接前後のフォロー、内定・入社フォローまで、面接以外の採用実務を企業に代わって担う採用事務局です。面接そのものと採否の判断は御社が行います。料金は月額49,800円〜、初回設計費100,000円(以降の費用は支援内容・工数に合わせて個別にお見積りします)。初回の設計では、まさに本記事で挙げた判断ラインの明文化と文面の整備をご一緒します。社外へ機能を持つ考え方は採用担当者を雇う前に、社外へ採用機能を持つという選択でも整理していますので、比較検討の材料にしてください。

採用担当の退職は、いつか必ず訪れる出来事です。そのときに慌てないための備えは、特別なプロジェクトではなく、今日の一件の応募をどこに記録するかという小さな選択から始まります。

自社の応募対応がどれだけ個人に依存しているか、一度棚卸ししてみたいという方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。サービス責任者の佐々木がお話をうかがいます。