内定を承諾してもらい、あとは入社日を待つだけ。そう思っていた矢先に「申し訳ありませんが、現職から強く慰留されておりまして」という連絡が入る。中途採用に取り組んだことのある経営者なら、一度は経験のある場面ではないでしょうか。
在職中の候補者にとって、内定はゴールではなく退職交渉のスタートです。会社を選ぶ判断はすでに済んでいても、その決断を現職に伝え、引き継ぎを終え、実際に籍を抜くまでには何段階もの関門があります。ここで会社側が「早く決めてください」と迫ると、候補者は板挟みになって連絡を止めてしまいます。一般に、この時期に効くのは説得ではなく、退職交渉という個人戦を一緒に整理してあげる伴走だということです。
引き止めは「条件」ではなく「情」で来る
引き止めというと、給与の上乗せや役職の提示を想像されるかもしれません。もちろんそれもありますが、よくあるケースを振り返ると、候補者の心が揺らぐのはもっと感情的な部分であることが多いように思います。
「今抜けられたら現場が回らない」「あの案件だけは最後まで見てほしい」「育ててやったのに」。こうした言葉は、条件面の比較検討では太刀打ちできません。候補者が転職先に感じている魅力は将来の期待値ですが、現職からかけられる言葉は目の前の具体的な人間関係だからです。
だからこそ、会社側が「うちの方が条件は良いはずです」と重ねても効果は薄くなります。必要なのは、候補者が抱えている罪悪感や気まずさを、一段軽くしてあげる関わり方です。この構造は、比較の軸を整理する中途採用の「他社と迷っています」への向き合い方とも共通しています。
内定を出した直後に聞いておきたいこと
引き止めが起きてから動くのでは遅く、内定通知の段階で退職交渉の見通しを共有しておくと、後から慌てずに済みます。とはいえ、根掘り葉掘り聞くと詰問になります。あくまで「入社日を決めるために教えてください」という文脈で聞くのが自然です。
| 聞くこと | 質問例 | 見えてくること |
|---|---|---|
| 申し出の予定日 | 「退職のお話は、いつ頃されるご予定ですか」 | 動き出しているか、まだ切り出せずにいるか |
| 伝える相手 | 「まずはどなたにお伝えする形になりますか」 | 直属上長か人事か。引き止め役が誰か |
| 就業規則上の期間 | 「規則では何日前までの申し出とされていますか」 | 入社日の物理的な下限 |
| 引き継ぎの想定 | 「引き継ぎはどのくらいかかりそうですか」 | 繁忙期や担当案件による延び幅 |
| 有給の残日数 | 「有給はどのくらい残っていますか」 | 最終出社日と退職日のズレ |
この5つを聞いておくと、入社日を「◯月1日で」と一方的に決めずに済みます。特に引き継ぎの想定は、候補者自身も曖昧なまま答えることが多い項目です。「まだ分からない」という返事なら、それはそれで正常です。分からないという事実を共有できていること自体が、後の調整をしやすくします。
入社日は「幅」で握る
多くの会社が入社日を一点で決めようとしますが、在職中の候補者に対しては幅を持たせた握り方の方が、結果として承諾が固まりやすくなります。
たとえば仮の数字で考えます。当初10月1日入社で合意していたところ、引き継ぎが延びて10月15日になったとします。会社側が「10月1日でないと困る」と伝えれば、候補者は現職と転職先の両方から圧をかけられる状態になります。逆に「最大で11月頭まではお待ちできます」と最初に伝えておけば、候補者は現職に対して余裕を持って交渉できます。
もちろん、欠員補充で急いでいる事情はあるでしょう。その場合も、「◯日までに入社いただけると助かる理由」を具体的に説明したうえで、それでも難しい場合の代替案(週数日の先行勤務、研修だけ先行など)を用意しておくと、候補者は逃げ道のない交渉から解放されます。
入社日が動くこと自体は、辞退よりはるかに軽い問題です。この優先順位を社内で先に決めておくことが、現場からの「いつ来るんだ」という声に押されないための備えになります。関連して、内定通知の出し方で承諾率は変わる。伝え方とスピードも併せてご覧ください。
押し込まずに味方になる、連絡の立ち位置
退職交渉の期間中、会社側からの連絡は難しいバランスを求められます。放置すれば不安になり、頻繁に連絡すれば催促に感じられます。
支援の場面でお勧めしているのは、進捗を尋ねる連絡ではなく、判断材料を渡す連絡に切り替えることです。「退職の件、どうなりましたか」ではなく、「配属予定の部署の様子です」「入社初日の流れをお送りします」といった形にする。候補者は、聞かれていないのに自分から「今週上長に話します」と報告してくれるようになります。
もう一段踏み込むなら、退職交渉そのものの相談相手になる姿勢を明示しておくことです。「引き止めにあった場合、どう伝えればいいか分からなければ遠慮なくご相談ください」の一言があるだけで、候補者は連絡を止めにくくなります。逆に言えば、連絡が急に途絶えるときは交渉が難航しているサインであることが多く、選考中の音信不通にどう備えるか。連絡が途絶える前にできることや内定辞退は直前に起きる。兆候のつかみ方と入社までのフォローで触れた兆候の見方が役に立ちます。
なお、退職の進め方について会社側が具体的な指示をしすぎるのは避けたいところです。あくまで判断するのは候補者本人であり、こちらは選択肢と時間の余裕を提供する立場に留めておく。この距離感が、入社後の関係にもそのまま影響します。
誰がこのやり取りを担うのか
ここまでの内容は、どれも一件ずつの手間がかかる仕事です。社長や総務の方が本業の合間に、一人の内定者と数週間にわたって連絡を取り続けるのは現実的に難しいこともあります。結果として、内定を出したあとの数週間が空白になり、気づいたときには辞退の連絡が届く。
社外採用部は、応募の受付から日程調整、面接前後のフォロー、そして内定から入社までの連絡を代行する採用事務局です。退職交渉の状況を定期的に確認し、入社日の調整案を整理して会社側に共有する。判断はお客様が行い、候補者との細かなやり取りはこちらで担う、という分担です。料金は月額49,800円から、初回に設計費100,000円をいただき、以降は支援内容・工数に合わせて個別にお見積りしています。サービス責任者の佐々木純平が設計から関わります。
内定者が現職と向き合っている数週間、会社側が味方でいられるかどうか。そこに人手を割けていないと感じたら、/#contact からお気軽にご相談ください。現在の内定者フォローの状況をうかがったうえで、どこを外に出せるかを整理してお伝えします。
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